アルカイ・カサル

アルカイ・カサル（Arqai Qasar）は、13世紀前半にモンゴル帝国に仕えたジャライル部出身の千人隊長です。彼の生涯は、『元朝秘史』や『元史』などの漢文史料、『集史』などのペルシア語史料に記録されています。

出自と初期の活動

『元朝秘史』によると、アルカイ・カサルはジャライル部族のセチェ・ドモクの息子で、バラ・チェルビという兄弟がいました。セチェ・ドモク、アルカイ・カサル、バラの3名は、ジャムカと決別した頃のテムジン（後のチンギス・カン）の勢力に加わりました。アルカイ・カサルはテムジンの臣下となり、チャウルカン、タガイ・バアトル、スケゲイ・ジェウンらとともに使臣（イルチ）の職を与えられました。テムジンは彼らに「遠き矢、近き矢とこそなれ」と語り、その重要性を示唆しました。その後、アルカイ・カサルはチャウルカンとともにジャムカの下に使者として派遣されています。

バルジュナ湖の戦いと軍制再編

チンギス・カンと長年同盟関係にあったケレイト部がモンゴルを裏切って奇襲をかけたカラ・カルジトの戦いにおいて、モンゴル軍は敗北し、バルジュナ湖に逃れることになりました。この時、アルカイ・カサルとスケゲイ・ジェウンはチンギス・カンを裏切ったケレイト君主オン・カン、ジャムカらの非道を訴え、自らの正当性を訴えるための使者として派遣されました。バルジュナ湖で体勢を立て直した後、アルカイ・カサルはジュルチェデイとともにケレイト軍に反攻する際の先鋒に抜擢されています。

1203年、チンギス・カンはケレイト部を征服し、大勢力となったモンゴル軍の軍制を再編成しました。この時、後の千人隊（ミンガン）制度、親衛隊（ケシク）制度の原型が作られ、アルカイ・カサルは御帳前軍（親衛千人隊）の長官に任命されています。

モンゴル帝国建国後

ナイマン部を征服しモンゴル高原の統一を達成したチンギス・カンは、1206年にモンゴル帝国を建国しました。同時に国家体制の整備も進められ、1203年に原型の作られたケシクは大幅に規模が拡大されて1万を定員とし、アルカイ・カサルは1千の衛士の長官となりました。

金朝攻略と失脚

『元朝秘史』や『集史』などが伝える所によると、1215年に金朝の首都中都を攻略したチンギス・カンは、シギ・クトク、オングル、アルカイ・カサルの3名に金朝の帑蔵（国庫）を検視するよう命じました。この時、金朝留守のカダはアルカイ・カサルら3名に金幣を差し出し、アルカイ・カサルとオングルはこれを受け取りましたが、シギ・クトクは拒否しました。後にこの一件を知ったチンギス・カンはシギ・クトクを褒め称え、アルカイ・カサルとオングルらを叱責しました。この一件が原因かどうかは不明ですが、弟のバラ・チェルビと異なり、アルカイ・カサルの子孫に関する記録は残っていません。

アルカイ・カサルは、初期のモンゴル帝国の成立と拡大に貢献した人物でしたが、晩年の不正行為によってその名声に傷をつけたと評価できます。

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