オーストリア国立銀行

オーストリア国立銀行（Oesterreichische Nationalbank; OeNB）

オーストリア国立銀行は、オーストリア共和国の中央銀行です。欧州中央銀行（ECB）と共に欧州中央銀行制度（ESCB）を構成する一員として、その活動は欧州中央銀行規程や国内の国立銀行法などによって規定されています。

沿革

オーストリアの中央銀行としての歴史は、1816年に設立されたオーストリア国立特別銀行に遡ります。この銀行は、国家財政の安定化と通貨制度の整備を目指し、オーストリアで初めて紙幣発行権を持つ銀行として誕生しました。同行は紙幣発行に関する独占的な権利を与えられ、共同設立者の一人であるベルンハルト・フォン・エスケレスが初代総裁に就任しました。

1841年には事業特許が更新され、国債を担保にした通貨発行を巡る各州の株主の影響力を抑制する方向性が強化されました。1848年革命の時期には、銀行の有力者たちが立憲主義運動を支持しました。この頃からおよそ100年にわたり、ウィーンのロスチャイルド家がオーストリアの金融政策において中心的な役割を担います。革命期には銀貨への投機熱が高まり、ウィーン家のザロモンは国家財政が再建されるまで中央銀行の主要な取引全てに関与し、この過程でフランスからの資本流入も発生しました。

普墺戦争後の1867年12月には、ラテン通貨同盟に部分的に参加しました。その後、アウスグライヒによるオーストリア＝ハンガリー帝国の成立に伴い、1878年には中央銀行もオーストリア＝ハンガリー銀行と改称されました。

長期にわたる議論の結果、1892年から1900年にかけて金本位制が導入されました。

第一次世界大戦中、中央銀行は戦費のおよそ4割を供給しました。戦後に発生した急激なインフレーションは、イタリア、フランス、チェコスロバキアなどからの国際的な援助（Genfer Protokolle）によって緩和されました。

1920年のハンガリー独立を経て、1923年には再びオーストリア国立銀行として新たに設立されました。

世界恐慌の只中にあった1931年5月には、わずか一週間の間に金・外国為替準備が大幅に減少し、紙幣発行高に対する準備率は83.5%から67.5%にまで低下しました。この金融危機は、国内大手銀行クレディタンシュタルトの破綻を引き起こし、国際決済銀行（BIS）への信用供与要請へと繋がりました。フランスは融資の条件として独墺関税同盟の破棄を求め、両国政府はこれに応じました。

1933年には、チロル州ヴェルグルで流通していた地域通貨「自由貨幣」が裁判所の判断により禁止されました。この結果、ほぼ完全雇用を実現していたヴェルグルでは失業率が大幅に上昇しました。

1938年のナチス・ドイツによるオーストリア併合（アンシュルス）により、オーストリア国立銀行はドイツ帝国銀行（ライヒスバンク）に吸収され、その機能は停止しました。

第二次世界大戦後、オーストリアの主権回復と共に国立銀行は再建されました。1947年には西ドイツと同様の通貨改革が実施され、1952年にはデフレ抑制策が取られました。1955年には公社化されました。欧州自由貿易連合（EFTA）加盟後も、冷戦下においては自律的な経済政策運営には制約がありました。

1979年8月30日には、本館の大部分が火災により損傷する出来事がありました。この時期は、その翌月から東ドイツ市民による西ドイツへの亡命が頻発した時期と重なっています。

1995年の欧州連合（EU）加盟を契機に、オーストリア国立銀行は欧州統合の波に乗り、1998年には欧州中央銀行制度（ESCB）に参加しました。そして、1999年には単一通貨ユーロが導入されました。

形態・組織

オーストリア国立銀行は、法的には独特な性質を持つ株式会社として位置づけられています。その活動は、欧州中央銀行規程や国立銀行法が優先され、会社法の規定はこれらの法律が特に定めていない範囲に限定されて適用されます。

設立当初の株式は、オーストリア共和国政府がその半分を、残りを国内の主要な銀行や保険会社が保有していました。しかし、主要株主であったBAWAG P.S.K.が不祥事を起こし、同行およびその大株主であったオーストリア労働組合連盟（ÖGB）が保有株式を手放した結果、政府の保有率が70.2%に増加しました。

国立銀行の意思決定を行う主要な機関は以下の通りです。

株主総会：毎年開催され、株主が銀行運営に関する報告を受け、年度決算の承認や役員等の選出を行います。
監理会：欧州中央銀行制度に関連しない分野の業務を監督し、一般的な株式会社の取締役会に相当する役割を担います。14名の構成員から成り、重要資産取引の承認や役員人事案の提出などを行います。
役員会：国立銀行の日常業務を統括する執行機関であり、欧州中央銀行制度の目標達成のため、ECBの指示に従います。総裁、副総裁を含む4名のメンバーで構成され、連邦政府の助言に基づき大統領が指名します。総裁はECBの政策理事会等においては独立した立場で職務を遂行します。

任務

オーストリア国立銀行が欧州中央銀行制度（ESCB）に統合されたことにより、従来の中央銀行機能の多くはECBに移管されました。現在、ESCBの枠組みにおける金融政策協力において、オーストリア国立銀行の主要な任務は物価の安定を維持することです。

そのほか、以下のような重要な任務を担っています。

政府による金融機関監督への協力体制を強化し、国内金融市場の安定に貢献すること。
欧州中央銀行が定める範囲内で、紙幣の発行や管理に関する業務を行うこと。
国内の商業銀行に資金を供給することで、金融システムへの現金の円滑な供給を維持すること。
欧州連合全体の銀行間大口決済システムであるTARGETや、オーストリア国内の銀行間決済システムであるARTISといった決済システムのサービスを提供・運営すること。
欧州中央銀行政策理事会の決定に基づいて、金融政策措置を実行すること。
* 経済や金融に関する統計の収集、分析、公表を行うこと。

これらの主要任務に加え、オーストリアの国内法令によって授権された様々な金融関連業務も実施しています。

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