オービー

オービー：アイルランドが生んだダービー王者

1904年生まれのオービーは、イギリスとアイルランド連合王国が生んだサラブレッド競走馬です。その名は、アイルランド調教馬として初めてエプソムダービーを制覇したことで、競馬史に燦然と輝くこととなりました。しかし、その輝かしい経歴の裏には、幾多の困難やドラマが隠されています。

幼少期と競走馬としての歩み

オービーはアメリカ合衆国の政治家リチャード・クローカー氏の所有するグレンケアン牧場で生まれました。生産地については諸説ありますが、イングランドで誕生後、アイルランドに移されたようです。クローカー氏はイギリスのジョッキークラブに馬主登録を拒否された経緯があり、オービーの調教は、当初ヘンリー・パース氏、その後はジム・パーキンソン氏に託されました。

幼少期のオービーは、蹄が脆いという弱点がありました。そのため2歳時はわずか2戦しか出走できず、いずれも3着という結果に終わっています。デビュー戦後には、脚から出血したという記録も残されています。

3歳になると、オービーはフレッド・マッケイブ調教師のもとで調教を受けるようになり、才能が開花し始めます。リバプールのエイントリー競馬場で行われたアールオブセフトンプレートで初勝利を挙げると、アイルランドに戻り、バルドイルプレートでも圧勝。ダービーへの期待が高まりました。ダービー当日のオッズは21倍と大穴でしたが、それまでの活躍により、レース当日には12倍まで上昇していました。

クローカー氏は、オービーのために調教パートナーとなる馬を2,500ギニーで購入するなど、ダービー制覇に向けて万全の準備を整えていました。さらに、オービーの警護のためボディガードまで雇っていたという逸話も残されています。

エプソムダービー制覇

1907年6月5日、エプソムダービー当日。天候は「冷たく湿って風の強い、陰鬱な一日」と伝えられています。9頭立てのレースには、2000ギニー優勝馬スリーヴギャリオンが1番人気に支持されていました。国王エドワード7世と皇太子も観戦に訪れたこのレースは、「シルクハット・ダービー」とも呼ばれるほど華やかなものでした。

レースは、ジョンブルが先頭を走り、スリーヴギャリオンが追いかける展開。オービーは6～7番手につけてレースを進めました。しかし、レース中盤、鞍上のジョン・レイフは果敢に動き出し、最後の直線でスリーヴギャリオンをかわして先頭に躍り出ると、そのまま突き抜け、2着のウールウィンダーに2馬身差をつけて優勝しました。

敗れたスリーヴギャリオンの調教師サム・ダーリングは、「より良い馬に負けた」とオービーの実力を認めたといいます。クローカー氏は、このレースに4万ポンドを賭け、優勝賞金は全額を慈善事業に寄付したとのことです。

ダービー制覇後、クローカー氏はスリーヴギャリオンの馬主とマッチレースを計画しましたが、実現には至りませんでした。その後、オービーはカラ競馬場に戻り、エプソムダービー優勝馬として初めてアイリッシュダービーにも勝利を収めました。

引退と種牡馬生活

しかし、オービーはその後、喘鳴症を発症します。1番人気で出走したアトランティックステークスでは最下位に敗れ、休養を余儀なくされました。セントレジャーステークスへの出場を目指して調整が行われましたが、調教中に故障が発生し、出場を断念。さらに腎臓疾患も発症し、翌年初まで復帰を目指したものの、結局引退することになりました。

1907年の獲得賞金は6,717ポンドでした。

引退後は故郷のグレンケアン牧場で種牡馬として活躍します。70のステークス競走で勝利した産駒は、3万ポンドの賞金を獲得しました。その代表産駒には、1919年のダービー優勝馬グランドパレードや、1917年の1000ギニー優勝馬ダイアデムなどがいます。また、産駒のザボスは、サーコスモ・ゴールデンボスなどの名スプリンターを輩出し、成功を収めました。さらに、グランドパレードの血統からは、日本で成功したダイオライトも出ています。

1918年4月6日、オービーは死亡しました。

オービーの生涯は、恵まれた才能と、それを阻む困難、そしてそれを乗り越えようとする人々の努力が複雑に絡み合った、ドラマチックなものでした。アイルランド調教馬として初めてエプソムダービーを制したその功績は、競馬史に永遠に刻み込まれるでしょう。

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