オーブラスチ

オーブラスチ：スラヴ系諸国の地方行政区分

オーブラスチ（область）は、ロシア連邦をはじめとするスラヴ系諸国で用いられる地方行政区分の名称で、日本語では一般的に「州」と訳されます。この用語は、旧ソ連諸国を中心に、その歴史的背景や各国の制度において重要な役割を果たしています。

歴史的背景

オーブラスチの起源は、ロシア帝国時代に遡ります。19世紀後半のロシア帝国では、ヨーロッパ・ロシア等の内地に県（グベールニヤ）が設置され、一方で辺境地域には総督府（ゲネラール・グベルナートルストヴォ）が設けられ、その管轄下にオーブラスチが置かれていました。この制度は、帝国の広大な領土を効率的に管理するためのものでした。

ロシア革命後、ソビエト連邦が成立すると、地方行政区分の再編が行われました。1929年までに、帝政期の県やオーブラスチは、共和国（республика）、オーブラスチ、管区（округ）などに再編されました。ソ連時代には、各連邦共和国の管轄下にオーブラスチが設置され、その下に地区（район）や州構成市（город областного подчинения）が置かれました。ロシア・ソビエト社会主義共和国のオーブラスチの中には、自治管区を管轄するものもありました。ただし、カフカス諸国のような小規模な共和国では、オーブラスチは設置されませんでした。ソ連崩壊直前には、オーブラスチの数は123に達しました。

ロシア連邦におけるオーブラスチ

1992年の「ロシア連邦条約」において、ロシア連邦のオーブラスチは、共和国や地方（край）と並ぶ連邦構成主体（субъект Российской Федерации）として位置づけられました。2000年には、ロシア全土を7つに区分した連邦管区（федеральный округ）が設置され、各オーブラスチは連邦管区の管轄下に置かれることになりました。これにより、中央政府による地方行政の管理が強化されました。

その他の諸国におけるオーブラスチ

ソ連時代にオーブラスチが設置されていた諸国では、ソ連崩壊後にその呼称は各共和国の民族語に代えられました。以下にいくつかの例を挙げます。

ウクライナ: ウクライナ語ではオーブラスチ（область、oblast'）と呼ばれ、24のオーブラスチが存在します。その他に、首都キエフとセヴァストポリの2つの特別市、クリミア自治共和国があります。
ベラルーシ: ベラルーシ語ではヴォーブラシツィ（вобласьць）と呼ばれ、6つのオーブラスチが設置されています。また、ミンスク市はオーブラスチと同格の行政区画として扱われます。ベラルーシでは、ロシア語のオーブラスチも併用されます。
カザフスタン: カザフ語ではオブルス（Облыс）と呼ばれ、14のオーブラスチと3つの政令指定都市が置かれています。
キルギス: キルギス語ではオブラスト（Област）と呼ばれ、7つのオーブラスチと1つの特別市が存在します。
タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン: これらの国では、ロシア語のオーブラスチに対応する語として、アラビア語のウィラーヤ（ولاية, wilāyah）やペルシア語のヴェラーヤト（ولایت, Velāyat）に由来する民族語が用いられます。
タジキスタン: タジク語ではヴィラーヤト（Вилоят）と呼ばれ、2つのオーブラスチ、1つの自治州、1つの直轄地方で構成されます。
トルクメニスタン: トルクメン語ではウェラーヤト（Welaýat）と呼ばれ、5つのオーブラスチとアシガバート市で構成されます。
ウズベキスタン: ウズベク語ではヴィラーヤト（Viloyat）と呼ばれ、12のオーブラスチ、1つの特別市、1つの自治共和国が設置されています。
ブルガリア: ブルガリアでは、オーブラスチ（област、oblast）と呼ばれ、1987年に28個から9個に再編された後、1999年に再び28個に戻されました。

このように、オーブラスチは地域や国によって異なる呼称や制度を持ちますが、その歴史的なルーツは共通しています。旧ソ連諸国における行政区分の理解を深める上で、オーブラスチは重要な概念と言えるでしょう。

参考文献

塩川伸明、上野俊彦 「行政区分」 『新版 ロシアを知る事典』 平凡社 2004年 (ISBN 978-4-582-12635-8)

関連項目

* ロシア帝国の州の一覧

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