オール・アイ・ウォント・イズ・ユー

オール・アイ・ウォント・イズ・ユー（All I Want Is You）

アイルランド出身のロックバンド、U2が1988年に発表したアルバム及びドキュメンタリー映画『魂の叫び』（Rattle and Hum）に収録された楽曲です。翌1989年にはシングルとしてリリースされました。

楽曲概要

この楽曲は、U2の別の代表曲「ウィズ・オア・ウィズアウト・ユー」（With or Without You）のエンディング部分から着想を得て誕生しました。歌詞は、ボーカルのボノが自身の妻アリに捧げた、個人的な想いを込めた内容となっています。レコーディングには、U2のメンバーに加え、キーボード奏者のベンモント・テンチが参加し、またヴァン・ダイク・パークスがストリングス・アレンジを担当しました。特に印象的なのは、歌詞の中で「All I want is you」と歌われた後に響くギタリスト、エッジによる演奏です。これは、ボノから愛を告白された妻アリの心境を表しているとされています。ボノ自身は、この曲を「ウィズ・オア・ウィズアウト・ユー」よりも優れていると評しています。映画版『魂の叫び』ではエンドロールに使用され、感動的な締めくくりを飾りました。

「オール・アイ・ウォント・イズ・ユー」を含む「ゴッド・パート II」（God Part II）、「ホークムーン 269」（Hawkmoon 269）、そしてシングルのB面に収録された「ア・ルーム・アット・ザ・ハートブレイク・ホテル」（A Room at the Heartbreak Hotel）と「ハレルヤ（ヒア・シー・カムズ）」（Hallelujah (Here She Comes)）は、プリンスを手掛けたことでも知られるプロデューサー、デヴィッド・トリックルと共に、カリフォルニア州ハリウッドにあるA&M Studiosでレコーディングされました。

評価

この楽曲は発表以来高く評価されており、『エンターテインメント・ウィークリー』誌が選出した「50グレイテスト・ラヴ・ソング」では9位にランクインしています。また、2011年に『ローリング・ストーン』誌の読者投票で選ばれた「The Best U2 Songs」では8位を獲得しました。

シングルリリースと収録曲

「オール・アイ・ウォント・イズ・ユー」は世界各国で異なるバージョンのシングルがリリースされました。主なB面曲としては、ライチャス・ブラザーズのカバーである「アンチェインド・メロディ」（Unchained Melody）や、ロバート・ナイトやラヴ・アフェアーのヒットで知られる「エヴァーラスティング・ラヴ」（Everlasting Love）のカバーなどが収録されています。「アンチェインド・メロディ」は後にU2のライブでも披露され、映像作品『Zoo TV: Live from Sydney』にも収められています。

ミュージックビデオ

本楽曲のミュージックビデオはメイアート・エイヴィスが監督を務めました。パオラ・リナルディとパオロ・ロッシが出演し、イタリアのオスティアで1989年4月18日に撮影されました。リリースは同年6月です。

『ヨシュア・トゥリー』（The Joshua Tree）リリース後の喧騒に区切りをつける『魂の叫び』からの最後のシングルとして位置づけられたため、これまでのU2のPVとは異なるサイレント映画のようなスタイルが採用されました。ボーカルのボノは、これまでのPVが楽曲の内容を解説するようなものであったのに対し、このPVでは楽曲の本来の意味とは異なる、新たなインスピレーションを与えることを目指したと語っています。そのため、U2のメンバーは映像の最後に短い時間登場するのみとなっています。

脚本はバリー・デブリンが手掛けました。物語は、あるサーカス団を舞台に、小人の男性がブランコ乗りの女性に恋をするという展開で描かれます。この設定は、トッド・ブラウニング監督による1932年の映画『フリークス』から着想を得ており、同作の奇形の人々が登場するサーカスという舞台設定や、身体的特徴を持つ男性と美女の叶わぬ恋というテーマに通じるものがあります。また、ヴィム・ヴェンダース監督の1987年の映画『ベルリン・天使の詩』とも、白黒の映像、天使がサーカス団の女性に恋をする設定、主人公がトランペット奏者である点などで共通性が指摘されています。さらに、イギリスの映画脚本家ニール・パターソンが1951年に制作した短編映画「The Life and Death of George Wilson」に内容が酷似しているという意見もあります。

PVの結末は意図的に曖昧に描かれています。これは、ロケ地の近くで遺作となる『ボイス・オブ・ムーン』を撮影していた映画監督フェデリコ・フェリーニへのオマージュであると言われています。映像の最後に誰が亡くなったのかについては諸説ありますが、ギタリストのエッジはブランコ乗りの女性の恋人であったトランペット奏者であると述べています。

他メディアでの使用

この楽曲は様々な映画で使用されています。1994年のアメリカ映画『リアリティ・バイツ』（Reality Bites）のサウンドトラックに収録され、映画の公開に合わせてシングルが再発売されると、USメインストリームロックチャートで38位を記録しました。また、2000年の映画『すべての美しい馬』（All the Pretty Horses）の予告編にも使用されました。さらに、2011年のスティーブン・ソダーバーグ監督作品『コンテイジョン』（Contagion）では、物語の終盤、マット・ディモンの娘が恋人とダンスするシーンで印象的に流れます。

カバーバージョン

「オール・アイ・ウォント・イズ・ユー」は複数のアーティストによってカバーされています。

ベルファイア（Belfast）： アイルランドのガールズグループ、ベルファイアが2001年のデビューアルバム『アフター・ザ・レイン』（After the Rain）でこの曲をカバーし、翌2002年にシングルカットしました。彼女たちは当初、スタジオ作業に慣れるために録音したところ、マネージャーたちが感銘を受け、U2のボノに音源を聴かせたところ気に入られたことから、正式なレコーディングに至ったというエピソードがあります。このカバーは、母国アイルランドのシングルチャートで5位に達し、自身にとって2作目のトップ5ヒットとなりました。全英シングルチャートでも4週チャートインし、最高18位を記録、これも彼女たちにとって2作目のトップ20入りを果たしました。
ブライアン・マックファーデンとローナン・キーティング： アイルランド出身の歌手ブライアン・マックファーデンが、同じくアイルランド出身のローナン・キーティングとのデュエットで、アルバム『ザ・アイリッシュ・コネクション』（The Irish Connection）にカバーバージョンを収録しています。
* レス・ポール&フレンズ： 伝説的なギタリスト、レス・ポールが2005年のアルバム『レス・ポール・トリビュート』（Les Paul Tribute）に、スマッシング・パンプキンズのジョニー・レズニックをゲストボーカルに迎えてカバーバージョンを収録しています。

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