カッファレッリ

カッファレッリ、本名ガエターノ・マヨラーノ（Gaetano Majorano, 1710年4月12日 - 1783年 1月31日）は、18世紀のイタリアが生んだ偉大なメゾソプラノ・カストラート歌手です。その歌唱力は当代随一と称賛された一方で、高慢で衝突を恐れない性格でも知られ、波乱に満ちた生涯を送りました。主にナポリを中心に活動しましたが、その名声はヨーロッパ各地に響き渡り、多くの主要なオペラハウスの舞台に立ちました。

生涯とキャリア

カッファレッリはナポリ近郊の町、ビトントに生まれました。幼少期に去勢を受け、その天性の歌声はナポリの音楽学校で磨かれました。おそらく兄弟と共に学んだイエスキリスト貧者音楽院では、ドメニコ・カッファーロという人物に師事したと言われており、彼の通称「カッファレッリ」はこの師の名に由来すると考えられています。その後、著名な作曲家で教育者でもあったニコラ・ポルポラにも学び、歌唱技術に一層の磨きをかけました。

1726年、カッファレッリはローマでオペラデビューを果たしました。初舞台では女性役を演じましたが、その後すぐに男性の主役であるプリモ・ウォーモとしてイタリア全土で引っ張りだことなります。ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル、師のポルポラ、ジョヴァンニ・バッティスタ・ランプニャーニといった当時の主要な作曲家たちの作品で、その才能を遺憾なく発揮しました。

ナポリでは宮廷歌手としての地位を確立し、ナポリ大聖堂での宗教音楽から、サン・バルトロメオ劇場やサン・カルロ劇場、王宮でのオペラ公演まで、幅広い舞台で活躍しました。

国際的な活動と騒動

カッファレッリの活躍はイタリア国内に留まりませんでした。1730年代後半、ロンドンではヘンデル率いるアカデミーとポルポラ率いる貴族オペラという二つのオペラ団体が激しく競合していました。1737年に貴族オペラが経営難に陥り、さらにヘンデルが病に倒れるという状況の中、ヘイマーケット国王劇場の支配人ジョン・ジェームズ・ハイデッガーは、ポルポラと人気を二分していたカストラート、ファリネッリの後釜としてカッファレッリを招聘しました。しかし、病から回復したヘンデルとハイデッガーが協力体制を築くと、カッファレッリはヘンデル作品を歌うことになります。1738年シーズンにはヘンデルの新作オペラ『ファラモンド』と『セルセ』で主要な役を演じましたが、期待されたほどの成功を収められず、ロンドンを離れることになります。

その後もカッファレッリはヨーロッパ各地を飛び回りました。1739-1740年にはパルマ公フィリッポの結婚を祝うためマドリードで歌い、1746年から1749年にかけてはトリノ、フィレンツェ、ジェノヴァ、ローマの劇場に出演しました。1749年にはウィーンに滞在しますが、ここで劇場付きの詩人ジョヴァンニ・アンブロージョ・ミリアヴァッカとの間で決闘沙汰を引き起こしたという逸話が残されています。

1752年にはナポリで上演されたクリストフ・ヴィリバルト・グルックのオペラ『皇帝ティートの慈悲』で主役セストを歌いました。この時、グルックがカッファレッリのために作曲したアリア「Se mai senti spirarti in volto」は、後に彼の代表作の一つである『トーリードのイフィジェニー』の中で有名なアリア「おお悲運なるイフィジェニー」(O malheureuse Iphigénie)として再利用されています。

1753年、カッファレッリはフランス国王ルイ15世の招きを受けてパリに赴きました。しかし翌年、ブフォン論争においてフランス側を支持した詩人バロ・ド・ソヴォーとの間で再び決闘騒ぎを起こし、王の不興を買ってフランスを追われることになりました。その後はリスボンで歌唱活動を行いますが、1755年のリスボン大地震では九死に一生を得たと言われています。リスボンを離れた後は、ライバルであり友人でもあったファリネッリに招かれてマドリードに滞在しました。

晩年

1756年に故郷ナポリに戻ったカッファレッリは、第一線から退きますが、1765年頃までは時折舞台に立つことがありました。晩年は非常に裕福で、ナポリには彼が建てた壮麗な邸宅が現存しています。この邸宅には、自身の名を音楽家として高名なアムピーオーンになぞらえ、「アムピーオーンがテーバイを建てたように私はこの家を建てた」(Amphion Thebas Ego Domum)という銘が掲げられており、その自負心の強さをうかがわせます。また、晩年は弟パスクアーレの子供たちの教育に力を注ぎ、慈善事業にも多くの財産を投じました。1783年 1月31日、カッファレッリはナポリでその生涯を閉じました。

カッファレッリは、その圧倒的な歌唱力で聴衆を魅了した一方で、並外れた傲慢さゆえに多くのトラブルを引き起こしました。しかし、その才能と個性は彼を18世紀オペラ史において忘れられない存在としています。彼の人生は、スターカストラートという特異な存在の光と影を鮮やかに描き出していると言えるでしょう。

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