カニカニ銀

カニカニ銀：独特の銀の動きで敵陣を突破する奇襲戦法

カニカニ銀は、将棋における急戦矢倉の一種で、主に先手番が用いる戦法です。その奇襲性から、しばしば奇襲戦法として分類されることもあります。2003年には、考案者である児玉孝一七段が、この戦法で第30回将棋大賞・升田幸三賞を受賞しており、その実力と影響力の大きさが伺えます。

カニカニ銀の起源と命名

カニカニ銀のルーツは、富沢幹雄らによって好まれた急戦矢倉の二枚銀戦法にあると推測されています。児玉自身も、カニカニ銀は二枚銀急戦矢倉をベースにしているものの、全く異なる戦法へと発展したと述べています。1950年には、大山康晴名人と升田幸三名人の対局において、カニカニ銀と類似した戦型が見られた記録もあります。

戦法の命名は森信雄九段によるもので、活発に動き回る銀の動きをカニに例えた、あるいは2枚の銀をカニのハサミに見立てたことに由来すると言われています。

カニカニ銀の指し方：飛車の自由度と多彩な攻め筋

カニカニ銀の最大の特徴は、飛車の活用における自由度の高さ、そして急戦矢倉の中でも特に多彩な攻め筋を持つ点にあります。従来の二枚銀急戦矢倉とは異なり、玉と金を初期位置から動かすことはなく（居玉）、5手目には▲6六歩ではなく▲7七銀と上がるところから戦いが始まります。

飛車先不突矢倉を採用せず、飛車先を2五まで伸ばし、後手に△3三銀を指させて角道を早期に閉ざすのが基本です。その後は右銀を▲4八銀～▲5六歩～▲5七銀～▲4六銀と動かし、後手が5筋の歩を突いてくれば、▲5八飛と中飛車に振ってから▲9七角～▲6六銀～▲7七桂と攻め込むのが一つのパターンです。これは敵陣の中央を突破することを目指す攻め方です。

当初は後手が△3二金と上がる指し方が多かったですが、先手中央突破の阻止が困難なため、現在では△5二金右とあらかじめ備える指し方が主流となっています。

一方、後手が5筋の歩を突かず、争点を作らないようにしてきた場合は、▲3六歩～▲3五歩と右銀を早繰り銀風に活用し、角は▲7九角と引きます。通常の早繰り銀とは異なり、銀が3五まで進出しても、銀交換を焦らず、プレッシャーをかけながら、最適なタイミングを伺うのが特徴です。5筋の歩を制圧する手段も存在します。

後手の飛車先交換に対しては、向かい飛車などから飛車交換を狙うのも有効な戦略です。居玉ではありますが、一段金なので飛車交換にも強い点がメリットです。局面によっては、飛車や角を細かく動かし、積極的に戦いを挑むことも重要になります。

カニカニ銀を実戦で用いた棋士たち

カニカニ銀は、多くのトップ棋士によって用いられてきました。森内俊之九段は1992年の王座戦二次予選でこの戦法を用いて勝利を収めています。また、同時期に児玉七段との対局では、児玉七段のカニカニ銀を相手に森内九段が勝利しています。羽生善治九段も、2011年の棋聖戦でカニカニ銀に近い形から攻め、勝利を掴んでいます。これらの対局例は、カニカニ銀がトップレベルの対局でも有効な戦法であることを示しています。

カニカニ銀は、その独特の銀の動きと、多彩な攻め筋を備えた、魅力的な戦法です。将棋の戦術を学ぶ上で、非常に興味深い戦法の一つと言えるでしょう。

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