カバジタキセル

カバジタキセル（Cabazitaxel）

カバジタキセルは、フランスの製薬企業サノフィによって開発された抗がん剤です。細胞骨格を構成する重要な要素である微小管に作用する「タキサン系薬剤」に分類されます。特に、がん細胞内の微小管の分解（脱重合）過程を阻害することで、がん細胞の分裂を停止させ、増殖を抑え、最終的に腫瘍を縮小させる効果を発揮します。商品名はジェブタナ（Jevtana）として知られています。開発段階ではXRP-6258という開発コードが付けられていました。

適応と承認状況

この薬剤は、主に標準的なホルモン療法が奏効しなくなった進行性の前立腺癌、すなわち「去勢抵抗性前立腺癌」の治療に用いられています。米国および欧州では既にこの適応症で承認されていましたが、日本国内でも2014年7月4日に「前立腺癌」を効能・効果として製造販売承認を取得し、使用可能となりました。

特徴

カバジタキセルは、他のタキサン系薬剤と比較していくつかの特徴を持っています。

薬剤耐性への対応: 薬剤を細胞外に排出するポンプとして機能するP糖タンパク質に対する親和性が低いことが知られています。この性質により、P糖タンパク質の働きによって他のタキサン系薬剤（例えばドセタキセル）に対して耐性を示すようになった腫瘍に対しても、有効性を示す可能性が期待されています。
血液脳関門通過: 薬剤の一部が血液脳関門を通過することが示唆されています。
神経毒性: 他のタキサン系薬剤に比べて、末梢神経障害などの神経毒性が比較的弱い傾向にあるとされています。

臨床試験

カバジタキセルの有効性および安全性は、国際共同第III相臨床試験などによって評価されました。去勢抵抗性前立腺癌患者755人が参加した主要な試験では、カバジタキセルを投与された群の中央生存期間は15.1ヶ月でした。これは、比較対照薬であるミトキサントロンを投与された群の12.7ヶ月と比較して統計学的に有意な延長を示しました。一方で、この試験においては、重篤（グレード3または4）な好中球減少症がカバジタキセル群の81.7%に発現し、対照群の58%よりも高頻度で見られました。

副作用

カバジタキセルの投与にあたっては、いくつかの重要な副作用に注意が必要です。特に、薬剤に対する過敏反応（アレルギー反応）を最小限に抑えるため、カバジタキセルを点滴する前に、抗ヒスタミン薬、副腎皮質ホルモン製剤、ヒスタミンH2受容体拮抗薬などの薬剤を前もって投与することが必須とされています。

報告されている重大な副作用には以下のようなものがあります。

骨髄抑制: 免疫力の低下や出血傾向、貧血などにつながる骨髄機能の低下が最も頻繁に見られます。具体的には、好中球減少症（30.1%）、発熱性好中球減少症（12.5%）、貧血（10.6%）、白血球減少症（7.0%）、リンパ球減少症（0.2%）、血小板減少症（5.5%）などがあり、重症化すると好中球減少性敗血症（0.7%）や敗血症性ショック（0.7%）といった重篤な感染症を引き起こす可能性があります。
感染症: 骨髄抑制に伴い、感染症（16.1%）のリスクが高まります。
出血・凝固系異常: 播種性血管内凝固症候群（DIC）や静脈血栓塞栓症（1.2%）などが報告されています。
腎・肝・膵機能障害: 腎不全（1.0%）、肝不全、肝機能障害、急性膵炎といった臓器障害が起こりえます。
心臓系の異常: 不整脈（1.0%）、心不全、心筋梗塞、心タンポナーデなどが報告されています。
消化器系の異常: 消化管出血（1.0%）、消化管穿孔、イレウス（0.2%）、重篤な腸炎（0.5%）、重篤な下痢（5.1%）など、消化管に関する重篤な副作用が見られることがあります。
その他: 浮腫（3.9%）や体液貯留、アナフィラキシーショック、末梢神経障害、皮膚粘膜眼症候群（Stevens-Johnson症候群）、間質性肺疾患（肺臓炎、急性呼吸窮迫症候群など）といった副作用も報告されています。

日本国内で行われた初期の臨床試験においては、骨髄抑制の程度が特に顕著でした。好中球減少、貧血、白血球減少は全例（100%）に確認され、好中球減少については投与を受けた全ての患者で重篤（グレード3以上）な状態が見られました。リンパ球減少は88.6%、血小板減少は72.7%に報告されています。

安全性に関する情報

承認後の使用において、発熱性好中球減少症に関連した死亡例が複数報告されました。これを受け、2014年12月には日本の厚生労働省が製造販売元であるサノフィに対し、添付文書の改訂を行い、医療機関に対してリスク因子に関する理解、予防措置、ならびに早期の適切な処置の重要性について情報提供を徹底するよう指示しました。上記の重大な副作用の記述には、これらの安全対策を踏まえた情報が反映されています。

カバジタキセルの投与を受ける患者さんは、これらの副作用について医療従事者から十分な説明を受け、体調の変化に注意を払い、異常を感じた際は速やかに医師や薬剤師に連絡することが重要です。

カバジタキセル