カミング・アップ (曲)

カミング・アップ（Coming Up）

「カミング・アップ」は、イギリスのミュージシャン、ポール・マッカートニーが1980年に発表した楽曲です。同年リリースのソロアルバム『マッカートニーII』からの先行シングルとして、1980年4月11日にリリースされました。

シングルのB面には、興味深い2曲が収録されています。1曲目は、1979年12月17日にスコットランドのグラスゴーで行われたウイングスのツアーから、本楽曲のライブ音源です。もう1曲は、ウイングスのアルバム『ヴィーナス・アンド・マース』（1975年）制作時に録音されたものの、当時は未発表だった「ランチ・ボックス〜オッド・ソックス」が収められています。このB面収録曲に限り、アーティストクレジットは「ポール・マッカートニー & ウイングス」と表記されています。

楽曲は商業的にも成功を収めました。オリジナルであるスタジオ録音版は、全英シングルチャートで最高位2位を記録しました。特に注目すべきは、B面に収録されたライブ音源が、アメリカの主要なチャートであるBillboard Hot 100で第1位を獲得したことです。これは、B面曲がA面曲を凌駕して首位に立つという珍しいケースでした。

制作の背景

ポール・マッカートニー自身は、この楽曲の制作過程について語っています。彼はまず、スコットランドにある自身の農場で曲のアイデアを練り始めたといいます。制作は、まずドラムトラックから着手し、その上にギターやベースといった他の楽器を重ねてバッキングトラックを構築していった、と述べています。どのような楽曲になるか明確なビジョンがないまま、音を積み上げていったようです。ボーカルについては、スピードマシンを用いて声の速さを調整したり、わずかにピッチを下げたりといった実験的な手法を取り入れたほか、エコーマシンも活用することで、特徴的な響きを生み出しました。

ジョン・レノンへの影響

この楽曲は、元ビートルズのメンバー、ジョン・レノンにも大きな影響を与えたことで知られています。レノンは1980年秋のインタビューで、「カミング・アップ」を聴いて「良い仕事だ」と評価しています。楽曲が発表された1980年当時、レノンは音楽活動を休止していましたが、同年4月のある日、家族旅行中に車内のラジオでこの曲を偶然耳にしました。彼はそのメロディが「頭から離れない」と口ずさむほど気に入ったといいます。この楽曲との出会いが契機の一つとなり、レノンは「ディア・ヨーコ」の作曲を開始。その後、6月から7月にかけて9曲のデモテープを制作するなど、本格的に音楽活動を再開させました。

マッカートニーは、レノンがこの曲をニューヨークで聴き、「ちくしょう、やりやがったな。俺も頑張らないと！」と奮起したという話を聞き、非常に嬉しく感じたといいます。彼は、自身がレノンの背中を押す形になったと感じ、「カミング・アップ」がレノンをインスパイアできた曲であることに大きな誇りを持っていると語っています。

その他の言及

日本のテクノポップグループ、イエロー・マジック・オーケストラ（YMO）のアルバム『増殖』（1980年）に収録されている楽曲「NICE AGE」の中では、マッカートニーが日本で大麻不法所持容疑で逮捕・勾留されたというニュース速報を読み上げるパートがあり、そこで「Coming up Like a Flower」というフレーズが使用されています。

B面ライブ音源の詳細

シングルB面に収められたライブ音源は、1979年12月に行われたウイングスによるグラスゴー公演で録音されたものです。このテイクは、1987年に発売されたベスト・アルバム『オール・ザ・ベスト』（アメリカ盤）や、2001年の『夢の翼〜ヒッツ&ヒストリー〜』にも収録されていますが、シングルに収められたテイクとは収録時間が異なっています。

ミュージック・ビデオ

「カミング・アップ」のミュージック・ビデオは、そのユニークな内容で話題となりました。ビデオの中で、ポール・マッカートニーはハンク・マーヴィン（ザ・シャドウズ）、ジョン・ボーナム（レッド・ツェッペリン）、バディ・ホリーといった著名なミュージシャンや、サックス奏者のアンディ・マッケイ、フランク・ザッパ、さらにはビートルズ時代の自分自身を含む、合計10人の異なるミュージシャンを一人で演じています。リンダ・マッカートニーも参加しており、2名のコーラス役を務めました。ビデオに登場するドラムセットには「THE PLASTIC MACS」と書かれていますが、これはジョン・レノンが『ロックンロール・サーカス』出演時に結成した「ザ・ダーティー・マック」と、「プラスティック・オノ・バンド」に由来するものです。ミュージック・ビデオは、イギリスではテレビ番組『ケニー・エベレット・ビデオ・ショー』（1980年4月14日放送回）で、アメリカでは『サタデー・ナイト・ライヴ』（1980年5月17日放送回）でそれぞれプレミア公開されました。

参加ミュージシャン

スタジオ音源

ポール・マッカートニー - リード・ボーカル、キーボード、ギター、ベース、ドラム
リンダ・マッカートニー - バッキング・ボーカル

ライブ音源

ポール・マッカートニー - リード・ボーカル、ベース
リンダ・マッカートニー - キーボード、ボーカル
デニー・レイン - ギター、ボーカル
ローレンス・ジューバー - ギター
スティーブ・ホーリー - ドラム
トニー・ドージー - トロンボーン
サディアス・リチャード - サクソフォーン
ハウイー・ケイシー - サクソフォーン
aud スティーブ・ハワード - トランペット

ランチ・ボックス〜オッド・ソックス

ポール・マッカートニー - ピアノ
リンダ・マッカートニー - モーグ・シンセサイザー
デニー・レイン - ギター
ジェフ・ブリトン - ドラム
トニー・ドーシー - ベース

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