カラマツ属

カラマツ属（学名：Larix）は、マツ科に分類される、北半球の寒冷地や高山に広く分布する落葉性の針葉樹です。代表的な種には、日本のカラマツ（Larix kaempferi）などがあります。他の多くの針葉樹と違い冬には葉を落とすのが最大の特徴です。樹皮は暗褐色で、表面は鱗状に剥がれます。葉はマツの葉よりも短く、針のような形をしており、特に短い枝（短枝）の先端に20本から40本が集まって束状につくのが特徴です。葉があまり密に生えないため、カラマツの林内は比較的明るい空間となります。なお、キンポウゲ科にも同名の「カラマツソウ属」があるため、混同しないよう注意が必要です。

形態

カラマツ属の樹木は、円錐形の、いわゆるクリスマスツリーのような樹形を呈しますが、全体的には細長い印象の種が多く見られます。最も大型になるのは北米西部に生育するLarix occidentalisで、樹高は60メートル近くに達します。枝は幹の同じ高さから放射状に伸びる輪生というつき方をします。マツ属など他のマツ科樹木と同様に、カラマツ属にも通常の枝として伸びる長枝と、葉のつく基部にある短い短枝があります。葉は原則として短枝に束生（2-5cm程度の針状）しますが、若い長枝には一時的に一本ずつ葉をつける（単生）ことがあります。これは若い長枝に鱗片葉しかつけないマツ属とは異なる点です。樹皮は成長すると灰色がかり、荒く縦に裂けてきます。

花は風によって花粉が運ばれる風媒花で、雄花は枝から垂れ下がり地味な色合いです。一方、雌花は枝から上向きに立ち、赤みを帯びることが多いです。マツ科針葉樹では花粉に気嚢を持つ種が多い中、カラマツ属の花粉には気嚢がありません。球果、いわゆる松ぼっくりはマツ属のものに似ていますが、鱗片の先端にある突起（umbo）が形成されない点で異なります。形態が似たものに中国のイヌカラマツがありますが、これはカラマツ属とは別の、モミ属などに近いグループとされています。

生態

カラマツ属の樹木は強い光を好む陽樹であり、成長が早いため、森林が破壊された裸地などにいち早く侵入する先駆植物として重要な役割を果たします。しかし、一般的な環境では、日陰に強い他の樹木（陰樹）が後から生育してきて、カラマツ林はやがてそれらの樹木に置き換わられてしまいます。そのため、多くの場所ではカラマツ属の林は一代限りで永続しません。ただし、東シベリアのような、冬季の極端な低温や永久凍土、乾燥など厳しい環境下では、他の樹木が生育しにくいため、グイマツやシベリアカラマツの広大な森林が永続的に維持されています。根は土壌中の菌類と共生し菌根を作り、栄養吸収や病原菌からの保護に役立ちます。共生菌の中には食用となるキノコもあります。

カラマツ属は葉を比較的疎らに付けるため、林内は明るくなります。一方、落ち葉が厚く堆積し分解が遅い傾向があり、林床の植物の生育が悪い場所が見られることから、アレロパシー（他植物の生育を阻害する性質）の可能性も指摘されています。過湿には弱い傾向があります。シベリアのグイマツは極めて劣悪な環境でも生育する例として知られています。

分布

カラマツ属は、北半球の亜寒帯から中緯度の高山地帯にかけて広く分布しています。ヨーロッパ、シベリア、ヒマラヤ、北アメリカ北部などで見られ、世界には約12種が確認されています。南はヒマラヤ山地の標高2000～3000メートル以上に、北は北緯72度付近まで見られます。

日本には、固有種であるカラマツ（Larix kaempferi）の1種が自然分布しています。主に中部山岳地帯の山地帯から亜高山帯にかけて自生するほか、宮城県蔵王の馬ノ神岳にも隔離分布しています。日本の高原地帯では広く植栽され、秋の美しい黄葉で知られます。アジアにはグイマツ、シベリアカラマツ、ダフリアカラマツなど、ヨーロッパにはヨーロッパカラマツ、北米にはアラスカカラマツやアメリカカラマツ（タマラック）などが分布します。

人間との関係

カラマツ属は成長が早く、寒冷地でも生育に適しているため、かつて木材資源として需要が高かった時代には主要な植林樹種として広く利用されました。このため、現在でも中部地方以北や北海道に多くの人工林が存在します。炭鉱の坑木や住宅用材として利用された歴史がありますが、ヤニが多く乾燥するとねじれやすいといった性質が難点でした。現在では育種改良により、ねじれが少ない品種も開発されています。

日本の建築基準などにより、カラマツ材をそのまま建材として使うことは難しく、主に集成材などの二次加工製品として利用されています。集成材に加工されたカラマツ材は、やや赤みを帯びた独特の色合いを持ちます。他の用途開発も進められていますが、全体的な消費量は伸び悩んでいます。ただし、輸入材の供給不安から、一時的に国産カラマツ材の需要が増加した例もあります。

分類

カラマツ属の分類は、かつては球果の苞鱗の長さに基づいていましたが、近年は遺伝子研究により、ユーラシア大陸とアメリカ大陸の種に大きく分け、ユーラシア内を苞鱗の長短で分ける3つのグループに分類するのが主流となっています。

代表的な種として、アメリカ産には最大種のLarix occidentalis、ユーラシア産にはヨーロッパカラマツ（L. decidua）、シベリアカラマツ（L. sibirica）、グイマツ（L. gmelinii）、日本のカラマツ（L. kaempferi）などがあります。原始的とされる苞鱗の長いグループには、減少傾向のL. mastersianaなどが含まれます。

もう一度検索