隔離分布

隔離分布（不連続分布）とは

隔離分布（かくりぶんぷ、英: disjunct distribution）とは、生物がある地域から大きく離れた場所に分布している状態を指します。不連続分布（ふれんぞくぶんぷ、英: discontinuous distribution）とも呼ばれます。ここでは特に生物の隔離分布について解説します。

隔離分布の要因

生物の分布は、物理化学的環境要因、生物学的要因、そして歴史的な要因によって決定されます。具体的には、温度や雨量への適応、餌や天敵との関係、人間の活動などが影響を与えます。

本来、生物は祖先から生息範囲を広げていく過程で、移動可能で生存に適した場所へと連続的に分布を広げるはずです。しかし、実際には非生息地を挟んで飛び離れた分布を示す生物も少なくありません。大陸を隔てて分布する例も見られます。

隔離分布の要因としては、以下のようなものが考えられます。

1. 特定の生育環境を要求するもの

移動能力が高く、特定の環境を好む生物は、適した環境が点在する場合に隔離分布を示すことがあります。例えば、撹乱された土地に現れるパイオニア植物や、深海の熱水噴出孔周辺に生息する生物群集などが挙げられます。熱水噴出孔は寿命があり、次の噴出孔がどこにできるか分からないため、長距離分散能力を持つと考えられています。同様に、深海底の鯨骨周辺に集まる生物群集も、その特殊な環境から隔離分布を示すことがあります。

2. 広い分布域の一部が残ったもの

古代から生き残っている生物、いわゆる「生きている化石」と呼ばれる生物には、隔離分布が見られることがあります。例えば、肺魚はアフリカ、南アメリカ、オーストラリアに、アロワナはアマゾン、東南アジア、オーストラリアに、オオサンショウウオは日本、中国、北アメリカに分布しています。これらの生物は、かつては広い分布域を持っていましたが、その後の環境変化や他の生物との競争によって生息域が縮小し、隔離された地域に生き残ったと考えられます。特に、大陸周辺の孤島にその例が多く見られます。

3. 大陸移動によるもの

大陸移動そのものが隔離分布の原因となることもあります。大陸移動説の根拠の一つが、生物の分布でした。例えば、ヨーロッパと北アメリカに近縁種が多く存在することは、かつて両大陸が陸続きであったことを示唆しています。ゴンドワナ大陸起源のダチョウ類やヤマモガシ科なども、大陸移動によって隔離分布するようになったと考えられています。

4. 気候の変動による生育地の変化

地球の温暖化と寒冷化の繰り返しによって、生物の分布域は変化してきました。氷期には分布域が南下し、間氷期には北上することで、分布が分断されたり、切り離されたりすることがあります。日本の高山植物やライチョウなどは、氷河期の遺存種として知られています。これらの生物は、かつては連続した分布域を持っていましたが、温暖化によって高山に隔離されたと考えられます。

北アメリカ東部と東アジアに分布する生物も多く存在します。これは、新生代第三紀に北極周辺に生息していた生物が、第四紀の寒冷化に伴い南下した際に、山脈によって移動を阻まれ、東アジアと北米大陸で生き残った結果と考えられています。

5. 特殊な環境

高山、風穴、鍾乳洞、湿原、石灰岩地帯、蛇紋岩地帯などは、特殊な環境を持つため、隔離分布を示す植物が多く見られます。これらの地域は、特殊な土壌や環境条件によって、多くの植物にとっては生育が難しい場所ですが、特定の植物にとっては適した環境であり、他種との競争を避けて生き残ることができたと考えられます。

6. 海水面の変動

海水面の変動も、陸上生物の分布に大きな影響を与えます。海面が低下すれば浅い海峡は陸続きになり、海進の際には切り離されるため、生物の分布が変化します。琉球列島のハブの分布は、海水面の上昇によって低い島が水没し、ハブが絶滅したことが原因と考えられています。

7. 人為的な要因

人間の活動も、生物の分布に大きな影響を与えます。意図的な移動（家畜動物など）や無意識的な移動（衣服や持ち物に紛れた虫など）によって、生物は新たな地域に分布を広げることがあります。移入種と呼ばれるこれらの生物は、隔離分布を示すこともあります。クロガケジグモのように、オーストラリアと日本に飛び離れて分布する例もあります。また、本来その地域に生息しない生物が発見された場合には、人為的な要因を疑う必要もあります。

このように、隔離分布は様々な要因によって引き起こされる現象であり、生物の進化や分布を理解する上で重要な概念です。

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