カラ・ボガス・ゴル湾

カラボガスゴル湾：カスピ海の塩の湖

カラボガスゴル湾（Zaliv Kara-Bogaz-Gol）は、中央アジアのカスピ海の東部に位置する、特異な湾です。トルクメニスタン領に属し、カスピ海とは砂州によって隔てられており、狭い海峡を通じてのみ繋がっています。この地理的特徴から、独立した潟湖として分類されることもあります。湾の名前はトルコ語で「黒い潟湖」を意味します。

カスピ海との関わりと水収支

カラボガスゴル湾は、カスピ海に存在する湾の中で最大規模を誇りますが、水深は浅いのが特徴です。カスピ海から海峡を通じて水が流入する一方、流出する経路はありません。このため、湾内の塩分濃度は非常に高く、カスピ海から流入する魚類は、高濃度の塩分のために死滅することが知られています。

歴史的には、カラボガスゴル湾はカスピ海の塩分濃度調整に重要な役割を果たしてきました。カスピ海へ流入する河川の水量は変動し、20世紀初頭から1977年頃にかけては水位が約3メートル低下しました。特に1930年代には顕著な低下が見られました。この水位低下により、カスピ海からカラボガスゴル湾への水の流入量が減少し、湾内の塩化ナトリウム濃度が上昇しました。

その後、1977年から1990年代半ばにかけてはカスピ海の水位が約2メートル上昇しましたが、1980年、旧ソ連はカスピ海とカラボガスゴル湾を繋ぐ海峡を堰き止めました。これにより、湾への水の流入が完全に遮断され、1983年末までにはカラボガスゴル湾はほとんど干上がってしまいました。湾に残されたのは、濃縮された塩分と結晶化した塩でした。

環境への影響とダム撤去

カラボガスゴル湾の急激な乾燥化は、広範囲にわたる塩害や、それに伴う健康被害を引き起こしました。塩分を含む砂塵が舞い上がり、ダストボウル現象を引き起こしたのです。1990年代のソ連崩壊後、この地域はトルクメニスタン領となり、海峡を堰き止めていたダムは撤去されました。これにより、カスピ海からの水の流入が再開し、湾の生態系は変化しつつあります。

現在の状況と今後の課題

現在、カラボガスゴル湾は再びカスピ海と繋がり、水位は回復しつつありますが、かつての生態系を取り戻すには長い時間を要すると考えられます。塩害による環境への影響も懸念事項であり、継続的なモニタリングと環境保全対策が求められています。また、気候変動によるカスピ海の水位変動も、湾の生態系に影響を与える重要な要因の一つです。

参考文献

Robert P. Multhauf 著、市場泰男 訳『塩の世界史』平凡社、1989年11月24日。ISBN 4-582-40803-6
小宮山武治「カラ・ボガス・ゴル」『日本大百科全書』 5巻、小学館、1985年8月20日、857頁。ISBN 4-09-526005-X

参考サイト

1972年、ランドサットの衛星写真
Nasa Photo 20 August, 1984, showing complete desiccation of the Gulf of Kara-Bogaz-Gol - ウェイバックマシン（2014年10月20日アーカイブ分） - 1984年の干上がったカラボガスゴル湾の衛星写真
[日本大百科全書]『カラ・ボガス・ゴル』 - コトバンク
ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典『カラボガズゴル湾』 - コトバンク

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