カルムスチン

カルムスチン：脳腫瘍治療におけるアルキル化剤

カルムスチン（Carmustine、BCNU）は、β-クロロエチルニトロソウレア化合物に分類されるアルキル化剤の一種です。DNAを損傷することでがん細胞の増殖を抑制する作用機序を持ち、化学療法薬として用いられています。日本では2012年に承認され、主に脳腫瘍の治療に用いられています。

作用機序と特性

カルムスチンは、DNAの2本鎖を架橋するジアルキル化剤です。この作用により、DNAの複製と転写を阻害し、がん細胞の増殖を阻止します。特筆すべき点として、血液脳関門を通過できるため、脳腫瘍の治療に有効です。原薬は黄橙色の固体です。

商品名と承認状況

日本では「ギリアデル」の商品名で販売されています。米国では「BiCNU」、インドでは「Carustine」として知られ、その他にも欧州やアジアなど世界各国で承認・販売されています。

適応症

日本の承認は、悪性神経膠腫の腫瘍切除後の治療に留置剤が用いられる用途に限定されています。一方、米国では、より広範な脳腫瘍（神経膠腫、多形膠芽腫、髄芽腫、星状細胞腫など）への適応が認められています。さらに、多発性骨髄腫や悪性リンパ腫（ホジキンリンパ腫および非ホジキンリンパ腫）の治療にも用いられます。

米国では、静脈注射剤も承認されており、造血幹細胞移植における白血球数の減少を目的とした治療にも使用されます。この場合、フルダラビンやメルファランといった他の薬剤との併用が一般的です。また、BCNUはO6-ベンジルグアニン（日本では未承認）などのアルキルグアニントランスフェラーゼ（AGT）阻害薬との併用療法がしばしば行われます。AGT阻害薬は、BCNUによるDNA損傷の修復を阻害することで、BCNUの治療効果を高める効果が期待できます。

副作用

臨床試験データによると、カルムスチンの副作用発生率は比較的高いです。主な副作用として、脳浮腫、発熱、リンパ球減少、片麻痺、悪心、嘔吐、食欲不振、頭痛、肝機能障害などが報告されています。

重大な副作用としては、痙攣、大発作、脳浮腫、頭蓋内圧上昇、水頭症、脳ヘルニア、創傷治癒不良、感染症（創傷感染、膿瘍、髄膜炎など）、血栓塞栓症（脳梗塞、深部静脈血栓症、肺塞栓症など）、出血（腫瘍出血、脳出血、頭蓋内出血など）などが挙げられます。これらの副作用のリスクを考慮し、治療にあたっては慎重な管理が必要です。

投与方法

日本では、悪性神経膠腫の切除術後に、生体分解性ポリマー（ポリフェプロサン20）に含浸させたカルムスチン製剤を脳内に留置する治療法が用いられています。米国においても、生体分解性ウェハーに含浸させた製剤が脳腫瘍治療に用いられ、開頭手術中に留置されます。

関連物質

カルムスチンと同様のニトロソウレア系抗がん剤として、ロムスチンやセムスチンなどが知られています。これらの薬剤は、それぞれ構造や特性が異なるものの、同様の作用機序で抗がん作用を示します。

まとめ

カルムスチンは、脳腫瘍治療において重要な役割を果たす抗がん剤です。その有効性とともに、重篤な副作用の可能性も踏まえ、適切な患者選択と厳重な経過観察が不可欠です。治療にあたっては、医師の指示を厳守することが重要です。

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