カルロ・マデルノ

カルロ・マデルノ（1556年 - 1629年）は、イタリア系スイス人の建築家で、バロック建築の発展に大きな足跡を残しました。彼はティチーノ州カポラーゴで生まれ、初期には大理石の採掘場で働いていました。1588年、叔父である建築家ドメニコ・フォンターナの下で働くためにローマに移り住みました。この大理石の扱いの経験が、彼の建築家としての才能を開花させる上で重要な役割を果たしました。

マデルノが最初に手掛けた単独プロジェクトは、サンタ・スザンナ教会のファサード改修（1597年-1603年）でした。この作品は、初期の段階から彼の円熟した設計能力を示すものとして評価されています。マニエリスム様式から脱却し、バロック様式への移行を象徴するファサードとして、ジェズ教会と並び称されています。円柱と壁柱が織りなすリズミカルな構成や、中央部の突出と装飾の集中は、このファサードに複雑さと深みを与えています。厳格さを保ちつつも、遊び心を感じさせるデザインは、マデルノの特徴をよく表しています。

サンタ・スザンナ教会のファサードは、教皇パウルス5世の目に留まり、1607年にはサン・ピエトロ大聖堂の主任設計者に任命されることになりました。マデルノは、ミケランジェロが計画した大聖堂を改修し、本堂とファサードを拡張するという重責を担いました。1612年に完成したファサードは、中央の扉の上に豪華なバルコニーを備え、教皇が広場に集まった人々に祝福を与えることができるようになりました。ミケランジェロの設計したギリシア十字形からラテン十字形への拡張は、サン・ピエトロ広場からドームが見えなくなるという批判も招きましたが、マデルノに与えられた自由は限られていたと考えられています。

マデルノは、既存の建築物の改修を多く手掛けましたが、唯一、自らが設計から建設まで指揮した教会が、サンタ・マリア・デッラ・ヴィットーリア教会（1608年-1620年）です。しかし、この教会にはベルニーニの傑作「聖テレジアの法悦」が設置されているため、マデルノの建築は注目を浴びる機会が少ないのが現状です。また、この教会のファサードはマデルノの設計ではないという指摘もあります。

彼の最高傑作の一つとされるサンタンドレア・デッラ・ヴァーレ教会 (en) も、全体がマデルノの設計というわけではありません。ファサードとドームはマデルノが担当しましたが、全体の設計はジャコモ・デッラ・ポルタらが1540年にテアチノ会のために行ったものです。マデルノの最初の設計は1608年で、建設は1621年から1625年にかけて行われました。マデルノの死後、ファサードはカルロ・フォンターナによって完成されました。ファサードは、ジェズ教会でジャコモ・デッラ・ポルタが確立した様式をさらに発展させ、帯状装飾やコーニスの面を様々に前後させることで動きと深みを与え、キアロスクーロ的な効果を増大させています。

マデルノは他にも、サン・ジョヴァンニ・デイ・フィオレンティーニ教会 (en) を含む多くのローマの教会を手がけています。サン・ジョヴァンニ・デイ・フィオレンティーニ教会には、マデルノ自身の墓があります。さらに、クイリナーレ宮殿、カステル・ガンドルフォにある教皇の宮殿、バルベリーニ宮殿（後にベルニーニやボッロミーニが改修）など、多くの建築プロジェクトに関わりました。マッティ宮殿 (en) は、マデルノのパラッツォ設計の特徴がよく表れている建築物として知られています。

また、サン・パオロ・フオーリ・レ・ムーラ大聖堂の聖ロレンツォ礼拝堂やサンタ・プデンツィアーナ教会のカエターニ礼拝堂など、既存の教会内の新たな礼拝堂も設計しました。サンタ・マリア・マッジョーレ大聖堂の前にある聖母マリア記念柱の土台は、マデルノが設計したものであり、このデザインは多くのカトリック国で聖母マリア記念柱が建設される際のモデルとなりました。

このように、カルロ・マデルノは、バロック建築の発展に多大な貢献をした建築家であり、彼の作品は現在でも多くの人々に影響を与え続けています。

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