カンタブリア州

カンタブリア州：緑豊かなスペイン北部の自治州

カンタブリア州は、スペイン北部、カンタブリア海に面した自治州です。かつてはサンタンデール県と呼ばれていましたが、現在はカンタブリア県のみで構成されています。州都はサンタンデールです。東はバスク州、南はカスティーリャ・イ・レオン州、西はアストゥリアス州と接しており、北は大西洋のカンタブリア海に面しています。

地理と気候

カンタブリア州は、カンタブリア海とカンタブリア山脈に挟まれた、通称「緑のスペイン」と呼ばれる地域に属します。大西洋からの湿った風が山脈にぶつかり、年間降雨量1,200mmという豊かな降水量をもたらし、緑豊かな植生を育んでいます。この湿潤な海洋性気候が、カンタブリアの自然を特徴づけています。

地名の由来

カンタブリアという名前の由来は、諸説ありますが、一般的にはケルト語やリグーリア語で岩や石を意味する「cant」と、ケルト人の地方共通の接尾語である「-abr」が組み合わさったものと考えられています。このため、「岩の上に住む人々」または「高地の人々」という意味を持つとされています。

歴史

ローマ帝国時代

カンタブリアという名前が初めて文献に登場したのは、紀元前195年のことです。歴史家大カトが自著の中で、カンタブリ族（ケルト系またはバスク系）の国にあるエブロ川の水源について言及しました。カンタブリ族は、ローマとの戦いにおいて傭兵として利用されました。彼らは、第二次ポエニ戦争でカルタゴ側につき、ローマ軍と戦いました。また、ヌマンティア包囲戦では、カンタブリ人とヴァッカエイ人が援軍として参加したとされています。

ローマ帝国時代には、カンタブリア戦争と呼ばれる反ローマの戦いが起こりました。カンタブリ族の領域は、現在のカンタブリア州よりも広範囲に及んでいました。カンタブリア海が北の境界で、西はセッラ川谷、南はペーニャ・アマヤの丘砦、東はアグエラ川近くまで広がっていました。

中世

ローマ帝国が衰退すると、カンタブリアは西ゴート族の支配から自治を取り戻しました。西ゴート王リウヴィギルド王がカンタブリアを攻撃し、南部を占領してカンタブリア公国を設置しました。しかし、北部ではカンタブリ族はアラブ人の侵攻まで独立を保ちました。714年には、イスラム勢力がカンタブリア公国の首都アマヤを陥落させ、カンタブリア人はアストゥリアス王国に合流しました。レコンキスタ初期の年代記では、カンタブリアは地方として認識されていました。アストゥリアス王アルフォンソ1世は、カンタブリア公ペドロを父に持つと記述されています。

この時期以降、カンタブリアはアストゥリアスの名で語られることが多くなりました。サンタンデール、ラレード、カストロ・ウルディアレス、サン・ビセンテ・デ・ラ・バルケーラの4つの兄弟都市が中心となり、「沼地の兄弟会」を創設し、カスティーリャ海軍の一翼を担いました。また、レコンキスタ時代にはアンダルシア再征服にも積極的に参加しました。

16世紀から18世紀

16世紀には、「ラ・モンターニャ（山地）」という名前が広まりました。これは、カンタブリアを指す名前として、半島中央部を指すカスティーリャと対比されるものでした。カトリック両王の時代には、沼地の兄弟会は消滅し、クアトロ・ビラス王室代官区が代わりを務めました。カンタブリアは、メンドーサ家、マンリケ・デ・ララ家、ベラスコ家といった大貴族によって管理されていました。16世紀以降、カンタブリアに関する研究が盛んになり、特にカンタブリ族の領土の位置について議論されました。18世紀には、エンリケ・フロレス・デ・セティエーンによる『ラ・カンタブリア』のような重要な歴史研究が行われました。

16世紀末には、疫病によりカンタブリアの人口が激減しました。18世紀まで、カンタブリアの都市は経済と人口の衰退が続きました。1727年には、カンタブリアを統一する試みが行われましたが、州としてまとまることはありませんでした。19世紀初頭には、サンタンデール市が州都となり、州の名前をカンタブリアとすることが認められました。

19世紀

スペイン独立戦争中、司教ラファエル・トマス・メネンデス・デ・ルアルカが「カンタブリア摂政」を名乗り、カンタブリア人軍備を組織しました。しかし、フランス軍に敗北しました。その後、将軍フアン・ディアス・ポルリエルがリエバナで再編を行い、カンタブリア師団を編成しました。

20世紀

20世紀には、カンタブリアという名前が政治的な意味を持つようになり、1936年には共和連邦党がカンタブリア＝カスティーリャ連邦国家のための自治州を設置しようとしました。しかし、スペイン内戦により実現しませんでした。フランコ独裁政権下では、カンタブリアの名前の使用が減少しました。1963年には、カンタブリアの名前を採用する提案がなされましたが、サンタンデール市議会の反対により実現しませんでした。その後、1979年に自治法令の編成作業が開始され、1981年にカンタブリア自治法令が制定されました。これにより、サンタンデール県はカンタブリア州となり、歴史的な名前を取り戻しました。1982年には最初の地方議会が設置され、1983年には初の地方自治選挙が実施されました。1995年には、自治制定法の最初の大きな改革が行われました。

地理

カンタブリア州は、海岸地方と山地地方の2つに大きく分かれます。

海岸地方

海岸部は、低い谷が緩やかにうねり、リアス式海岸や砂浜が見られます。サンタンデール湾は、最も特徴的な海岸線を持っています。

山地地方

山地地方は、カンタブリア山脈の一部をなし、カルスト地形の石灰岩でできています。山脈には深い谷があり、急な流れの川が流れています。リエバナ谷、サハ＝ナンサ谷などの谷があります。また、ピコス・デ・エウロパは、2,500m以上の峰々が連なる山地です。

気候

カンタブリアは、メキシコ湾流の影響で、温暖な海洋性気候です。夏は暖かく、冬も比較的温暖です。年間降雨量は海岸部で約1200mm、山地ではさらに多くなります。平均気温は約14℃です。雪は、10月から3月の間に標高の高い地域で降ります。ピコス・デ・エウロパの一部では、雪が通年残っています。山脈の影響で、フェーン現象が起こり、乾燥した南風が吹くことがあります。

水系

カンタブリア州の河川は、距離が短く流れが速いのが特徴です。エブロ川を除いて、海岸線に垂直に流れています。降雨のため年間を通じて流量があります。主な河川には、アグエラ川、アソン川、ベサヤ川、デバ川、ミエラ川、ナンサ川、パス川、サハ川などがあります。

植生

カンタブリア州は、多様な植生が見られます。海岸地域には砂丘や崖に特殊な植物が生えています。沿岸地域には、落葉樹林がありましたが、現在では草地やユーカリの植林地が広がっています。山麓の丘陵には、ナラやブナの森林があります。高地には、カバノキやイネ科植物が見られます。リエバナでは、地中海性気候に似た微気候のため、コルクガシやブドウ、オリーブが栽培されています。カンポーでは、ピレネーカシや針葉樹が育っています。

自然公園

カンタブリア州には、7つの自然公園があります。

ピコス・デ・エウロパ国立公園
コジャードス・デル・アソン国立公園
サントーニャ、ビクトリア、ホイエル湿地自然公園
ペーニャ・カバルガ山塊自然公園
オヤンブレ自然公園
サハ＝ベサージャ自然公園
ドゥーナス・デ・リエンクレス自然公園

経済

カンタブリア経済は、第一次産業が減少傾向にありますが、畜産、農業、漁業などがあります。第二次産業は、建設業が活発です。鉄細工、食品製造、化学工業、製紙業なども行われています。第三次産業は、観光が成長しています。

人口統計

カンタブリア州の人口は、約56万人です。人口密度は206.8人/平方kmです。人口の多くは、海岸部に集中しています。サンタンデールとトレラベーガは、サンタンデール＝トレラベーガ都市圏を形成しています。

文化

言語

カンタブリア州の公用語はカスティーリャ語（スペイン語）です。また、地域固有の言語であるカンタブリア語も使われています。

史跡・行事

アルタミラ洞窟 - UNESCO世界遺産
マグダレーナ宮殿 - かつてのスペイン王宮
サント・トリビオ・デ・リエバナ修道院 - カトリック教会の巡礼地

また、カンタブリアでは、多くの市場や祭りが開催されています。

カンタブリア料理

カンタブリア料理は、畜産が盛んなため、肉料理が有名です。また、リンゴから作られるシードルや、ブドウカスを蒸留したオルホも作られています。代表的な料理には、コシード・モンタニェス、コシード・レバニエゴ、マルミータ、フリスエロスなどがあります。

カンタブリア州は、豊かな自然と歴史、文化が魅力的な地域です。多様な地形、気候、植生を持ち、独自の歴史を歩んできました。ぜひ一度訪れて、その魅力を体験してください。

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