ユーカリ

ユーカリとは

ユーカリ（有加利）は、フトモモ科ユーカリ属（Eucalyptus）に分類される樹木の総称です。その多くは常緑高木で、2020年の時点で900種近くが確認されています。和名のユーカリは、属名の英語読み「ユーカリプタス」を短縮したもので、学名の語源はギリシア語の「良い蓋」を意味する言葉に由来します。これは、蕾のがくと花弁が蓋状になる特徴や、乾燥地でもよく育つことにちなむとされています。

分布と特徴

ユーカリは、主にオーストラリアに分布していますが、ニューギニアやマレー群島区系にも生育するものもわずかに存在します。また、カメレレ（Eucalyptus deglupta）のように、オーストラリアでは自然分布が確認されていない種もあります。成長が非常に早く、材木として注目されており、70メートルを超える高さになるものから、5メートル程で枝分かれする種類まで様々です。

ユーカリ属は、オーストラリアという隔離された環境で多様な種に分化しましたが、共通の特徴を持っています。

樹皮: 長い紐状に剥がれるものが多く、滑らかな木肌を持つ。
葉: 幼木時は幅広く対生ですが、成木になると細長い披針形になり、互生に変化します。葉には精油分が含まれており、揉むと芳香がします。
花: 蕾は萼筒が倒円錐形か鐘形で、萼片と花弁が合着した蓋を持ちますが、開花時に脱落します。雄蕊は多数あります。
果実: 蒴果で、多数の小さな種子を含んでいます。

ユーカリは根を深く伸ばし、地下水を吸い上げる力が強いため、乾燥地での緑化にも利用されます。インド北部では、砂漠化した地域の緑化に成功した例もあります。しかし、ユーカリの葉から放出されるテルペンは引火性があり、山火事の原因となることもあります。

ユーカリの林

オーストラリアのユーカリ林は、雨量と気温によって以下の3つの型に分類されます。

湿潤ユーカリ林: 年間雨量750-1000ミリメートルの地域に発達し、密生した高木性のユーカリ林を形成します。セイタカユーカリ（Eucalyptus regnans）は、世界で最も高い広葉樹として知られています。
乾燥ユーカリ林: 年間雨量500-750ミリメートル（南部）または750-1500ミリメートルの地域に成立し、高木のユーカリ類がまばらに生育する疎林を形成します。
マリ: 南部の年間雨量250-500ミリメートルの範囲に成立し、低木のユーカリ類が散生する叢林を形成します。

発芽方法

ユーカリの種は、山火事後の降雨により発芽すると言われています。人工的にこの条件を満たすには、種を煎ったり、熱湯をかけたり、用土を燻煙処理したりしますが、特別な処理をしなくても発芽する種類が多いです。

歴史

ユーカリは、18世紀にイギリスの植物学者ジョセフ・バンクスによって紹介されました。しかし、ヨーロッパ人がユーカリを知ったのは、16世紀前半にポルトガルが東ティモールを植民地とした頃と考えられています。フランスでは、1802年に初めて植樹されました。

英名

ユーカリには、樹皮の特徴や生育形態から、以下のような英語名がつけられています。

ironbark: 樹皮が剥離しにくい種（例：アカゴムノキ）。
mallee: 複数の茎が塊茎から生えるタイプ（例：ミドリユーカリ）。
peppermint: 精油が得られるグループ（例：ユーカリ・ディベス）。
stringybark: 樹皮が剥離しやすい種（例：メスメート・ストリンギーバルク）。

また、樹幹から樹脂が滲出することから、ユーカリ属の木は「gum」や「gum-tree」と総称されることがあります。

主な種

ここでは、日本語文献に言及がある種のみを取り上げます。詳細については、ユーカリ属の一覧を参照してください。

利用

ユーカリは、オーストラリアの先住民アボリジニが傷を癒すために葉を利用していました。現在では、葉から取れる精油は、医薬品やアロマテラピーなどに利用されています。また、初期成長が早いことから、人工林の樹種としても利用されています。

パルプ原料

ユーカリは、パルプ原料として広く利用されています。特に、ローズガム（Eucalyptus grandis）は、製紙パルプ用のチップ生産に使われていますが、森林破壊や有袋類の生息環境の危機も引き起こしています。

精油

ユーカリ油は、気道の炎症やリウマチの症状緩和に用いられます。去痰、鎮痙効果、局所充血作用があり、のど飴、吸入剤、消毒薬などに利用されています。成分にはシネオール、ピネン、シトロネラールなどが含まれます。ユーカリプタス・グロブルスやユーカリプタス・ラジアータの精油は安価で、偽和はほとんど行われません。

禁忌・中毒

ユーカリ油は、外用では一般的に安全ですが、内服や蒸気発生装置での利用は中毒を引き起こす可能性があります。特に乳幼児への使用は危険であり、喘息患者の気管支炎を悪化させる可能性もあります。医師の指導の下で使用する必要があります。

緑化

ユーカリはアルカリ性土壌でも強く育つため、乾燥地帯の緑化に使われます。また、土壌を酸性にするため、酸性土壌での栽培には注意が必要です。

コアラの食料

ユーカリはコアラの食料として有名ですが、コアラが食べるユーカリの種類は限られています。新芽のみをエサとし、地域によって食べる種類が異なります。

木材

ユーカリの中には、木材としての利用価値が高いものがあります。オーストラリアでは、建築用から燃料用まで幅広く利用されています。材質は樹種によって異なり、重さが中庸から重硬のものが多いです。

脚注

[参考文献]
貴島, 恒夫; 岡本, 省吾; 林, 昭三 (1977). 原色木材大図鑑 (改訂 ed.). 保育社. p. 109
緒方, 健 (2000). “ユーカリ”. 世界大百科事典 (第2版 (CD-ROM版) ed.). 平凡社. https://kotobank.jp/word/%E3%83%A6%E3%83%BC%E3%82%AB%E3%83%AA%E5%B1%9E-1431351
鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文『樹皮と冬芽：四季を通じて樹木を観察する 431種』誠文堂新光社〈ネイチャーウォチングガイドブック〉、2014年10月10日、123頁。ISBN 978-4-416-61438-9。
エイダン・ウォーカー 総編集、ニック・ギブス、ルシンダ・リーチ、ビル・リンカーン、ジェーン・マーシャル、エイダン・ウォーカー 共著 (2006) 『世界木材図鑑』乙須敏紀 訳、産調出版、95-97頁。ISBN 4-88282-470-1（原書: The Encyclopedia of Wood, Quarto, 1989 & 2005.）
Chippendale, G.M. (1988). “Eucalyptus”. Flora of Australia. 19. Australian Government Publishing Service Canberra. pp. 1–448. https://www.dcceew.gov.au/science-research/abrs/publications/flora-of-australia/vol19
Slee, A.V.; Brooker, M.I.H.; Duffy, S.M.; West, J.G. (2020). EUCLID: Eucalypts of Australia (4th ed.). https://apps.lucidcentral.org/euclid/text/intro/index.html 2022年10月7日閲覧。

[関連項目]
木の一覧
アデレード・ブルー・ガム
ユーカリが丘駅
パイロファイト

[外部リンク]
ユーカリ植林と環境問題
栽培ガイド ユーカリ
オーストラリアでよく見られるユーカリについて

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