カール・リヒャルト・レプシウス

カール・リヒャルト・レプシウス（Karl Richard Lepsius, 1810年 12月23日 - 1884年 7月10日）は、19世紀を代表するドイツのエジプト学者であり、言語学者でもありました。彼はプロイセン王国によるエジプト遺跡調査を主導し、その成果をまとめた『エジプトとエチオピアのモニュメント』は、エジプト学における重要な文献として知られています。

生い立ちと初期の研究

レプシウスは、ザクセン王国（後のプロイセン王国）のナウムブルクで生まれました。ライプツィヒ大学、ゲッティンゲン大学、ベルリン大学で学び、1833年にベルリン大学で博士号を取得しました。初期の研究では、古文字学と比較言語学に焦点を当て、特にウンブリア語の青銅板に関する論文や、古文字学を言語研究の道具として活用する研究が高く評価されました。

エジプト学への転身

当初は古文字学の研究者として活躍していたレプシウスでしたが、1832年のシャンポリオンの死後、エジプト学の灯が消えることを危惧したフンボルトやブンゼンの勧めにより、エジプト研究に転身します。彼は、イタリア、オランダ、イギリスを4年間旅し、各地で収集されたエジプトの遺物を調査しました。1837年には、ヒエログリフに関する最初の研究「ロッセリーニ氏への手紙」を発表し、シャンポリオンの体系を再検討し、ヒエログリフが1文字で2つ以上の子音を表す場合があることを明らかにしました。

プロイセンによるエジプト調査

1842年から1845年にかけて、プロイセン王国のフリードリヒ・ヴィルヘルム4世は、大規模なエジプト遺跡調査隊を派遣しました。レプシウスはこの調査隊の総指揮者を務め、南はスーダンのハルツームから北はシリアまで広範囲にわたり調査を実施しました。この調査で新たに30基のピラミッドが発見され、130基のマスタバが調査され、15,000点以上の膨大な資料がベルリンに持ち帰られました。この調査の成果は、後のレプシウスの研究活動の大きな礎となりました。

学術的な成果

帰国後の1846年、レプシウスはベルリン大学のエジプト学教授に就任しました。また、この年には作曲家ベルンハルト・クラインの娘であるエリーザベト・クラインと結婚しました。1850年代にかけて、調査の成果は全12巻からなる大著『エジプトとエチオピアのモニュメント』としてまとめられました。この書物は、プロイセンの国威をかけて刊行され、フランスの『エジプト誌』を強く意識した豪華なつくりになっていました。

1866年には、レプシウスは再びエジプトを訪れ、エジプト第21王朝の首都タニスでカノプス勅令を発見しました。この碑文はロゼッタ・ストーンと同様にヒエログリフとデモティック、ギリシア語で書かれており、レプシウスがシャンポリオンの方法でエジプト語部分を解読した結果、ギリシア語部分と一致することが確認され、シャンポリオンの解読が正しいことが証明されました。

その他の業績

レプシウスは67基のピラミッドのリストを初めて作成したことでも知られています。また、エジプトに関する多くの著作を残し、『エジプト死者の書』、『エジプトの年代記』、『エジプト、エチオピア、シナイ半島からの手紙』、『エジプト王の書』など、エジプト学研究の基礎となる重要な文献を数多く出版しました。

レプシウスは、19世紀にアフリカの無文字言語のために聖書を翻訳する必要が生じた際に、ラテン文字による表記法に関する会議で、汎用的な標準ラテン文字表記法を提案し、英国聖公会宣教協会によって承認されました。この表記法は、アフリカの言語研究に大きく貢献しました。

レプシウスは、当時ほとんど知られていなかったヌビア語をはじめとするアフリカ諸言語の研究にも取り組み、『ヌビア語文法』などの著作を晩年に残しています。彼の研究は、エジプト学だけでなく、言語学、特にアフリカの言語研究に多大な影響を与えました。

その後

レプシウスは、1865年にベルリンのエジプト博物館の館長に就任し、1873年には王立図書館の館長にも就任しました。彼はエジプト学の発展に貢献し、その業績は今日でも高く評価されています。彼の研究は、エジプト文明の理解を深めるだけでなく、言語学、特にアフリカの言語研究にも大きな影響を与えました。

主な著書

『エジプト死者の書』 (1842)
『エジプトの年代記』 (1849)
『エジプト、エチオピア、シナイ半島からの手紙』(1852)
『エジプト王の書』 (1858)
『古代オリエントの単位について』 (1884)
『汎用言語アルファベット』 (1854)
『未記述言語と外国語の文字体系をヨーロッパ文字に統一するための標準アルファベット』 (1855)
『ヌビア語文法』 (1880)

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