ガス・グリソム

ヴァージル・アイヴァン・“ガス”・グリソム（Virgil Ivan "Gus" Grissom、1926年4月3日 - 1967年1月27日）は、アメリカ合衆国空軍のパイロットであり、アメリカ初の有人宇宙飛行計画であるマーキュリー計画における重要な宇宙飛行士の一人でした。

彼はアメリカで2番目の有人宇宙飛行を成し遂げた人物であり、世界で初めて2度の宇宙飛行を経験したという輝かしい記録を持っています。しかし、アポロ計画におけるアポロ1号の宇宙飛行士として訓練中、悲劇的な火災事故により命を落とし、アメリカの宇宙開発における最初の犠牲者の一人となりました。

グリソムは、インディアナ州ミッチェルで生まれ、地元のミッチェル高校を卒業後、1944年にアメリカ陸軍航空軍に入隊しました。終戦後、パデュー大学で機械工学の学士号を取得し、1951年に空軍に復帰。朝鮮戦争では戦闘機パイロットとして100回もの出撃を経験しました。戦後はジェット機のインストラクターを務め、その後、航空工学を専攻し、テストパイロットとしてのキャリアを積みました。

1959年、彼はその卓越した体力と精神力によって、マーキュリー計画に参加する7人の宇宙飛行士（マーキュリーセブン）の一人に選ばれました。この選抜は、アメリカ初の有人宇宙飛行を成功させるための重要なステップであり、グリソムはその一翼を担うこととなりました。

1961年7月21日、グリソムはマーキュリー・レッドストーン4号（リバティベル7）のパイロットとして、アメリカで2番目の弾道飛行を成功させました。しかし、帰還時には予期せぬトラブルが発生しました。着水時、カプセルのハッチが早期に開き、海水が浸水。グリソムは溺れかけましたが、幸いにもヘリコプターによって救助されました。

その後、グリソムはジェミニ計画にも参加。当初、シェパードがパイロットを務める予定でしたが、彼の病気により、グリソムが最初のパイロットに選ばれました。1965年3月23日には、計画初の有人飛行（ジェミニ3号）を成功させ、ジェミニ6-A号ではバックアップを務めました。

グリソムはアポロ1号の船長に任命され、アポロ計画における最初の有人飛行を担うことになりました。しかし、1967年1月27日、船内での訓練中に、エドワード・ホワイト、ロジャー・チャフィーとともに、爆発炎上事故により命を落としました。NASAの当初の発表では即死とされましたが、後の調査でグリソムは事故後15分以上生きていたことが判明しました。宇宙船のハッチが内側から開かない構造になっていたことが、脱出を困難にした要因でした。これは、かつてのリバティベル7の水没事故の教訓から導入された措置でしたが、結果として悲劇を招いてしまいました。グリソムの遺体はアーリントン国立墓地に埋葬されています。

グリソムの生涯飛行時間は4600時間に及び、そのうち3500時間はジェット機によるものでした。もし彼がアポロ1号の事故で亡くなっていなければ、最初に月面に足を踏み入れた宇宙飛行士になった可能性も高かったと考えられています。

グリソムは数々の賞を受賞しており、その中にはコリアー・トロフィー（1962年）、宇宙名誉勲章（遺贈）、殊勲飛行十字章、航空勲章、二度のNASA功労賞などが含まれています。

彼の功績を讃え、以下のものが彼の名前にちなんで命名されています。

グリソム空軍予備役基地（インディアナ州）
ヴァージル・I・グリソム図書館（バージニア州）
ヴァージル・I・グリソム高校（アラバマ州）
ヴァージル・I・グリソム・ミドル・スクール（インディアナ州）
パデュー大学のグリソムホール
カシオペヤ座γ星の別名「ナビ」(Navi)　彼のミドルネーム「Ivan」の綴りを逆にしたもの
グリソム（小惑星）
ヴァージル・I・グリソム橋（バージニア州）

グリソムの生涯は、映画やテレビドラマでも度々描かれており、彼の不屈の精神と勇気は今もなお多くの人々に感動を与え続けています。

1983年の映画『ライトスタッフ』ではフレッド・ウォードがグリソムを演じました。
1998年のドラマ『人類、月に立つ』ではマーク・ロルストンが演じました。
* 2018年の映画『ファースト・マン』ではシェー・ウィガムが演じました。

また、『スタートレック』シリーズや『CSI:科学捜査班』などにも、グリソムにちなんだ名称が登場しています。彼の名は、宇宙開発の歴史にその名を刻み、後世に語り継がれることでしょう。

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