ガーダシル

ガーダシル (Gardasil / Silgard)

ガーダシルは、米メルク・アンド・カンパニー（Merck & Co.）、日本ではMSD株式会社が製造販売する、ヒトパピローマウイルス（HPV）の特定の型への感染を予防するためのワクチンです。

このワクチンには主に2種類があります。

4価ガーダシル: HPVの6型、11型、16型、18型の感染を予防します。子宮頸癌の主要な原因とされる16型・18型や、尖圭コンジローマの原因の多くを占める6型・11型に対応しています。これらの型が関与する尖圭コンジローマ、肛門癌、膣癌、外陰部癌などの予防にも効果が期待され、一部の国では男性への接種も承認されています。
9価ガーダシル（日本での製品名: シルガード9）: 4価ガーダシルが対象とする4つの型に加え、HPVの31型、33型、45型、52型、58型の感染も予防します。これらの追加された型は、子宮頸癌全体の約9割の原因となるとされています。9価ワクチンは、4価ワクチンよりも広範囲のHPV関連疾患を予防する可能性を持ちます。

世界と日本での状況

ガーダシルは2006年にアメリカ合衆国で初めて承認されて以来、世界中で広く使用されています。2012年時点では、世界の約120カ国で使用され、HPVワクチン市場において高いシェアを占めていました。他の主要なHPVワクチンには、グラクソ・スミスクライン社のサーバリックス（2価）があります。

日本においては、ガーダシルはMSD株式会社が輸入・販売を担当しています。正式な販売名は「ガーダシル水性懸濁筋注シリンジ」です。日本では、子宮頸癌予防を目的として主に女性を対象とした定期接種に用いられてきましたが、2013年6月には、接種後に多様な痛みの症状が報告されたことを受け、国による積極的な接種勧奨が一時的に差し控えられました。しかし、希望者は引き続き定期接種として無償で接種を受けることが可能で、予防接種健康被害救済制度の対象ともなります。標準的な接種対象は中学1年生の女子とされ、小学6年生から高校1年生までの期間に完了することが推奨されています。2020年12月には、9歳以上の男性に対しても、肛門癌やその前駆病変、尖圭コンジローマの予防を目的とした接種が追加承認されました。

9価ワクチン「シルガード9」は、海外で「ガーダシル9」として先行して承認・販売されていましたが、日本では2020年7月に承認され、2021年2月に発売されました。「シルガード9」という名称は、HPV感染による扁平上皮内病変（SIL）から守る（Guard）ことと、9つのHPV型を含むことに由来しています。承認当初は定期接種の対象外であり、自費での接種のみでしたが、後に定期接種化されています。男性への接種適応も4価ガーダシルと同様に承認されています。

成分

ガーダシルは、特定のHPV型のL1蛋白質から作られたウイルス様粒子（VLP）を含んでいます。これらのVLPはウイルスの殻に似ていますが、ウイルス自体の遺伝情報（DNA）を持たないため、感染性はありません。このVLPを、アルミニウムヒドロキシホスフェイト硫酸塩というアジュバント（免疫反応を高める物質）に吸着させています。安定性を高めるために、L-塩酸ヒスチジンやポリソルベート80、塩化ナトリウムなどが添加されています。

効果

ワクチンに含まれるVLPを接種することで、体内で特定のHPV型に対する抗体が作られます。これにより、接種対象となるHPV型（4価: 6, 11, 16, 18型 / 9価: 6, 11, 16, 18, 31, 33, 45, 52, 58型）への感染が予防されます。予防できる具体的な疾患には以下が含まれます。

子宮頸癌（扁平上皮細胞癌、腺癌）およびその前駆病変（CIN1, CIN2, CIN3, AIS）
尖圭コンジローマ
外陰上皮内腫瘍（VIN1, VIN2, VIN3）
膣上皮内腫瘍（VaIN1, VaIN2, VaIN3）
肛門癌（扁平上皮癌）およびその前駆病変（AIN1, AIN2, AIN3）

臨床研究により、接種後5年から9年経過しても高い抗体価が維持されることが報告されており、比較的長期的な効果が期待されています。

用法・用量

ガーダシルおよびシルガード9は、通常、9歳以上の者に接種されます。接種は合計3回、筋肉内（主に上腕の三角筋）に注射します。

3回接種の場合: 初回接種後、2ヶ月後に2回目、6ヶ月後に3回目を接種します。これは15歳以上（シルガード9は通常）や、年齢に関わらず免疫不全などの場合に適用されることがあります。
* 2回接種の場合: 9歳から14歳までの間に接種を開始する場合、初回接種後、6ヶ月から12ヶ月の間隔で2回目を接種することが推奨される場合があります（特にシルガード9）。ただし、2回目の接種が初回から5ヶ月未満だった場合は、追加で3回目の接種が必要です。

日本での定期接種の対象年齢は、主に小学6年生から高校1年生の女子です。この期間内の接種は公費負担となります。

副反応

ワクチン接種に伴い、様々な副反応が報告されています。主なものは接種部位の痛み、腫れ、赤みなどです。全身性の副反応としては、頭痛、発熱、吐き気、めまいなどが挙げられます。特に接種後に失神するケースがあり、失神による転倒で怪我をすることもあるため、接種後しばらく（通常15分程度）は安静にすることが医療機関で推奨されています。失神に伴って震えや体のこわばりが見られることもあります。

日本国内では、過去にガーダシルやサーバリックス接種後に持続的な痛みを訴える事例が問題視され、積極的な接種勧奨が一時的に差し控えられた経緯があります。ただし、これらの症状とワクチン接種との明確な因果関係については議論があります。

海外の報告と比較すると、日本の副反応報告件数が多い傾向が見られましたが、報告基準の違いなども影響している可能性があります。ガーダシルは、有害事象（副反応に限らず、接種後の好ましくない事象全般）の出現率において、サーバリックスよりも低い傾向が示された報告もあります。

HPVワクチン接種に関する是非や議論については、別途、ヒトパピローマウイルスワクチンに関する情報を参照することが推奨されます。

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