キトサン

キトサン：自然由来の多機能性高分子

キトサンは、カニやエビなどの甲殻類の外骨格に含まれるキチンを原料とする天然の高分子多糖類です。キチンをアルカリ処理することで得られるキトサンは、グルコサミンがβ-1,4結合で直鎖状に連なった構造をしており、その分子量は数千から数十万と幅広いです。化学式は(C6H11NO4)n、CAS登録番号は[9012-76-4]で表されます。

製造方法

キトサンの工業的な製造は、キチンの脱アセチル化反応によって行われます。キチンは、グルコサミンにアセチル基が結合したN-アセチルグルコサミンが重合した構造をしています。このアセチル基を濃アルカリ溶液中で処理することで脱アセチル化し、アミノ基を有するグルコサミンを主鎖とするキトサンが得られます。

しかし、この脱アセチル化反応は完全に進行するわけではなく、一部にN-アセチルグルコサミン残基が残存することがあります。そのため、キトサンの品質は脱アセチル化率(%DA)で表され、NMR分光法や赤外線吸収スペクトル法などで測定されます。市販されているキトサンの脱アセチル化率は一般的に60～100%の範囲にあり、70%程度のものが多く流通しています。

キトサンの特徴と性質

キトサンは、様々な特徴を有しています。まず、加工性に優れており、繊維、フィルム、粒子、発泡体など様々な形状に加工可能です。また、生物由来の原料であるため、資源枯渇の心配が少なく、生分解性も持ち合わせています。さらに、化学処理によって様々な機能を付与できる点も大きな利点です。

キトサンは低毒性とされ、マウスへの経口投与による半数致死量（LD50）は16g/kgと報告されています。しかし、抗てんかん薬であるバルプロ酸ナトリウムとの併用においては薬物相互作用が報告されており、バルプロ酸ナトリウムの効果を減弱させる可能性があるため注意が必要です。

キトサンは、アミノ基を持つため、高分子電解質としての性質を示し、希酸水溶液に溶解します。また、重金属イオンや酸性物質に対する吸着能も高く、水には不溶ですが、希酸やキトサン塩（塩酸塩など）は水に溶解します。さらに、ヨウ素と反応して赤褐色（硫酸酸性下では紫色）を呈する性質も持ちます。酸解離定数はpKa<6.5です。

キトサンの用途

キトサンは、その優れた特性から様々な分野で利用されています。近年では、神経再生や皮膚再生といった再生医療分野での応用が注目されています。

その他にも、ポリマーブレンドやハイブリッド材料への応用、アミノ基の反応性を活かした誘導体化による高機能化など、様々な研究開発が進められています。精製度の高いキトサンは、膜、繊維、スポンジなどの形態で医療分野にも利用されています。

主な用途としては、以下のものが挙げられます。

化粧品: 抗菌性を活かした繊維への配合
医療: 火傷治療用の創傷被覆材、人工皮膚
分析: クロマト分離剤、イオン交換体
バイオテクノロジー: 微生物や酵素の固定化担体
環境: 重金属や放射性物質の吸着剤
食品: 特定保健用食品（トクホ）としての利用（コレステロール低下作用）、ダイエット食品への配合、食品添加物（増粘剤）
* 工業: カチオン系活性汚泥凝集剤

キトサンは、その多様な機能性と生体適合性から、今後ますます幅広い分野での利用が期待される素材です。

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