キャビン・イン・ザ・スカイ (映画)

キャビン・イン・ザ・スカイ

『キャビン・イン・ザ・スカイ』（原題: Cabin in the Sky）は、1943年に制作されたアメリカ合衆国のミュージカル映画です。本作は、1940年に発表された同名のブロードウェイ・ミュージカルを原作としています。特に、後に多くの名作を生み出すヴィンセント・ミネリ監督にとって、初の長編映画監督作品となった記念碑的な一本です。

この映画の大きな特徴は、主要な出演者を全て黒人俳優が務めている点です。当時のハリウッドでは珍しい試みであり、その豪華なキャストには、エセル・ウォーターズ、エディ・ロチェスター・アンダーソン、そしてレナ・ホーンといった才能が集結しました。ブロードウェイ版で好評を博したエセル・ウォーターズとレックス・イングラムは、舞台と同じ役を演じました。特にレナ・ホーンにとっては、メトロ・ゴールドウィン・メイヤー（MGM）のミュージカル作品で主演を務めた最初で唯一の機会となりました。さらに、伝説的なジャズトランペッターであるルイ・アームストロングが悪魔の子分の役で出演し、デューク・エリントンと彼のオーケストラが劇中の音楽を演奏するなど、音楽面でも非常に充実しています。

物語の概要

物語の主人公は、根は善良ながらも意志が弱い男、リトル・ジョー・ジャクソンです。彼はギャンブルで作った借金が原因で、強欲なドミノ・ジョンソンによって命を危険に晒されてしまいます。瀕死の重傷を負ったリトル・ジョーは、天国の使者であるエンジェル大佐によって、魂の行く末を決めるための半年間の猶予を与えられます。この期間に、彼が善行を積んで天国へ向かうか、それとも誘惑に負けて地獄へ落ちるかが試されるのです。

エンジェル大佐の指示を受けたリトル・ジョーは、怠惰な生活を改め、妻であるペチュニアのために働く勤勉で心優しい夫になろうと努力します。しかし、悪魔の息子であるルシファー・ジュニアは、あの手この手でリトル・ジョーを堕落させ、地獄へ誘い込もうと画策します。ルシファーはリトル・ジョーに宝くじを当てさせ、富裕層の男を誘惑する美女ジョージア・ブラウンを使って、リトル・ジョーと妻ペチュニアの夫婦関係を破壊しようとします。誘惑に負けたリトル・ジョーはペチュニアを捨て、ジョージアと共に享楽的な日々を送ります。

リトル・ジョーとジョージアがナイトクラブで楽しんでいる最中、妻ペチュニアが現れ、夫を取り戻そうとします。そこにドミノも現れ、ペチュニアを誘惑しようとしますが、リトル・ジョーはドミノと対決します。窮地に陥ったペチュニアは、ナイトクラブの崩壊を神に祈願します。その祈りが通じたかのように竜巻が発生し、ナイトクラブを破壊します。混乱の中、ドミノはリトル・ジョーとペチュニアを撃ち殺してしまいます。リトル・ジョーの魂は失われたかに見えましたが、エンジェル大佐は、ジョージア・ブラウンが改心してリトル・ジョーの遺産を教会に寄付したことで、リトル・ジョーとペチュニアが天国へ行くことを許されたと告げます。

リトル・ジョーとペチュニアが天国への階段を昇っている最中、リトル・ジョーは突然自身のベッドで目を覚まします。実は、冒頭で撃たれた際に負ったのは重傷であり、死には至っていませんでした。天使や悪魔との一連のやり取りは、全て高熱にうなされたことによる夢の中の出来事だったのである。この体験を通じてリトル・ジョーは改心し、愛する妻ペチュニアと共に新たな人生を始める決意をします。

キャストと音楽

主要キャストは以下の通りです。

ペチュニア・ジャクソン: エセル・ウォーターズ
リトル・ジョー・ジャクソン: エディ・ロチェスター・アンダーソン
ジョージア・ブラウン: レナ・ホーン
トランペッター: ルイ・アームストロング
ルシアス/ルシファー・ジュニア: レックス・イングラム
エンジェル大佐/グリーン牧師: ケネス・スペンサー
* ドミノ・ジョンソン: ジョン・バブルス

本作で使用された楽曲には、エセル・ウォーターズが歌う「Happiness is a Thing Called Joe」や「Taking a Chance on Love」、レナ・ホーンが歌う「Honey in the Honeycomb」、デューク・エリントン・オーケストラの演奏などが含まれます。

特に、レナ・ホーンが泡風呂に浸かりながら歌うシーンを含む「Ain't It the Truth」は、公開前にカットされたことで知られています。これは、当時の道徳観念から、黒人女性の入浴シーンを映画で流すことが問題視されたためと言われています。このシーンは後年のドキュメンタリーなどで公開され、ホーン自身も当時の状況について語っています。また、この曲にはルイ・アームストロングが参加した別のバージョンも存在しましたが、これもカットされたため、アームストロングの演奏はサウンドトラック盤でしか聴けないものとなりました。

制作と評価

制作にあたっては、全米黒人地位向上協会（NAACP）に脚本が提示され、黒人の寓話として肯定的な評価を得ています。劇中で竜巻が発生するシーンには、『オズの魔法使』（1939年）で有名な竜巻シーンを撮影したSFX技術者によるストック・フッテージが再利用されました。

公開当時の評価は複雑でした。1940年代には、特にアメリカ南部において、黒人俳優が主演する映画の上映を拒否する映画館が多く存在しました。実際に、テネシー州のある映画館では上映中に警察によって中止させられる事件も発生しています。

一方で、エセル・ウォーターズが歌唱した楽曲「Happiness is a Thing Called Joe」は、アカデミー歌曲賞にノミネートされるなど、音楽面は高く評価されました。興行収入も良好で、MGMにとっては利益を生んだ作品となりました。

批評家の中には人種的ステレオタイプが含まれている点を指摘する声もありましたが、才能ある俳優たちの演技や魅力的なミュージカルシーンは多くの評価を得ています。長らく家庭用ソフトとしての供給が途絶えていましたが、2006年にDVDがリリースされ、再び観賞できるようになりました。

2020年には、アメリカ議会図書館によって「文化的、歴史的、審美的に優れている」として、アメリカ国立フィルム登録簿に選出されました。これは、本作がアメリカ映画史において重要な作品として認識されていることを示しています。当時の社会情勢の中で制作された本作は、現代の視点から見ると議論の余地もありますが、才能あふれる黒人キャストの活躍や、夢と現実が織りなす独特の世界観、素晴らしい音楽によって、今なお多くの映画ファンに記憶されています。

今なお多くの映画ファンに記憶されている作品です。

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今なお多くの映画ファンに記憶され、評価されています。

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