キャメルトライ

『キャメルトライ』は、1990年 4月に日本のタイトーによってアーケード向けに稼働が開始されたアクションパズルゲームです。プレイヤーは、画面中央に表示されるボールを制限時間内に迷路の奥にあるゴールへと導くことを目指します。このゲームの最大の特徴は、一般的なアクションゲームのようにキャラクターやボールを直接操作するのではなく、背景に描かれた迷路全体を回転させることで、常に画面中央に位置するボールの動きを制御するという、非常にユニークなシステムにあります。タイトル名の「キャメル」は英語でラクダを意味し、タイトルロゴにはラクダのコブの上をボールが転がっている様子がデザインされています。

開発はタイトー社内で行われ、『ナイトストライカー』などを手掛けた海道賢仁氏がプロデュースとゲームデザインを担当しました。この革新的な操作方法は、実際にプレイするプレイヤーによって慣れるまでの時間に差が生じ、熱中するプレイヤーとそうでないプレイヤーが分かれる要因ともなりました。

ゲームシステム

操作は、『アルカノイド』などに使われたパドルコントローラーと、1つのボタンで行います。パドルコントローラーを回すことで迷路を自由に回転させることができ、迷路内に設定された重力に従って落下するボールの方向を制御します。迷路内には常に画面下方向へ働く重力が存在するため、迷路を180度回転させると、重力によってボールが進む方向も逆転します。

ボタンは「シェイクボタン」として機能します。ボールが迷路の壁に接している際にボタンを押すと、ボールが壁から離れる方向に勢いよく飛び出します。これはピンボールの「ナッジ」に似た効果です。また、ボタンを押し続けるとボールの速度が上昇し、壁に衝突した際の跳ね返りが大きくなります。

空間を落下するよりも、迷路の外壁などに沿って転がした方がボールの速度は速くなります。壁に勢いよくぶつかるとボールは弾かれますが、一部の壁は衝撃で破壊され、新たなルートを開拓したりアイテムが出現したりすることもあります。転がっている最中にシェイクボタンを押すと、進行方向に大きくジャンプすることも可能です。このジャンプを効果的に使いこなすことが、タイム短縮や難所攻略において非常に重要となります。

ボールは完全に画面中央に固定されているわけではなく、バウンドなどによって僅かに位置がずれることがあります。このずれを利用し、バウンド中に迷路を高速回転させることで壁をすり抜ける、といった高度なテクニックも存在しました。

コンティニュー画面などに登場する女性キャラクターは、スペシャルコースのエンディングで「ボールの還る処の時空の女神ユリカ・セライ」とされていますが、元々はデモ画面に女性キャラを表示させてインカムを向上させた他のゲームにあやかって追加されたサービス的な要素だったようです。稼働当時の雑誌『ゲーメスト』では、彼女が着るドレスの首元から見える下着らしき肩紐から、「ブラチラ姉ちゃん」という通称で呼ばれることもありました。

コースとステージ

ゲーム開始時には、「トレーニング」「ビギナー」「エキスパート」「スペシャル」の4種類のコースから1つを選択します。各コースの全てのステージをクリアするとエンディングとなります。迷路内には様々な仕掛けが用意されており、それらを乗り越えながらゴールを目指します。

各コースのステージ数は以下の通りです。

トレーニング、ビギナー：全6ステージ
エキスパート：全8ステージ
スペシャル：全10ステージ

迷路を構成する外壁には石と木の2種類があり、それぞれボールの転がる速度や弾み方が異なります。石の壁は速度が出やすい反面、制御が難しく、木の壁は速度は遅いですが制御しやすい特性があります。

2人プレイでは、先にゴールしたプレイヤーが勝利となり、制限時間が5秒加算されるラップマッチ形式となります。ドローの場合は10秒（スペシャルコース以外）加算されます。

ボーナス要素

迷路内の仕掛けやボーナスシステムには、ピンボールを模した要素が多く取り入れられています。

ナンバーマッチ: タイムオーバー時に、ルーレットの数字とスコアの下2桁が一致すると、制限時間が回復しゲームを続行できる救済措置。1クレジットにつき1回利用可能。
スロット: 残り時間が少なくなると出現し、絵柄を揃えることで制限時間が大幅に回復するチャンス（スペシャルコースでは出現しない）。
ゾロ目: スコアの特定の桁がゾロ目になるとボーナスが加算される。

隠しキャラクター

ゲーム開始時に特定の操作をしながらコース選択を行うと、通常のボールとは異なる性能の隠しキャラクターを選択できました。重力がより強く働く鉄球や、漫画家・雑君保プ氏のキャラクターなどが登場しました。

移植版

『キャメルトライ』は国内外で様々なプラットフォームに移植されました。

X68000版: 1991年発売。電波新聞社からリリースされ、パドル操作を実現するためのマウスアタッチメントが付属していました。ハードの制限から、擬似的な回転表示でアーケード版を再現しています。
スーパーファミコン版: スーパーファミコンの回転機能を活かし、アーケード版の操作感を忠実に再現した移植度が高いバージョンです。日本国外では『On the Ball』のタイトルで発売されました。スーパーファミコン版独自のオリジナルステージも多数追加されています。
FM TOWNS版: 電波新聞社による移植で、X68000版をベースとしています。
携帯電話ゲーム版: 2005年にEZアプリとして配信されました。
PlayStation 2版: 『タイトーメモリーズ上巻』（2005年）などのオムニバスソフトに収録されました。当初は特定条件を満たす必要がありましたが、後に発売された廉価版では最初からプレイ可能になりました。
PlayStation Portable版: 『タイトーメモリーズポケット』（2006年）に収録。アレンジ版も搭載されています。
EGRETⅡ mini: 専用パドル＆トラックボールゲーム拡張セットに収録されています。
iPhone/iPod touch版: タッチパネルや加速度センサーに対応した操作方法に変更され、デザインもアレンジされています。

評価

アーケード版はゲーム誌『ゲーメスト』の「第4回ゲーメスト大賞」（1990年度）において、大賞7位、ベストアクション賞4位を獲得するなど、その独創性やゲーム性が高く評価されました。『ザ・ベストゲーム2』（1998年）では「一風かわった濃いゲーム」と評され、壁の材質によるボールの挙動の違いなど、細部にまで作り込まれた点が称賛されています。隠しボールの存在も人気の一因となり、稼働当時は壁抜けなどのショートカット技を用いたタイムアタックやスコアアタックがプレイヤー間で盛んに行われました。

スーパーファミコン版も、雑誌のクロスレビューなどで一定の評価を得ており、読者投票によるゲーム通信簿では323本中149位となるなど、当時のスーパーファミコンソフトの中でも比較的高い評価を得ています。

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