キャリアメール

キャリアメールとは

キャリアメールとは、日本の携帯電話事業者（ドコモ、au、ソフトバンクなど）が提供する、携帯電話端末向けのメールサービスの総称です。一般的に「携帯メール」とも呼ばれます。

これは日本独自のサービスであり、海外では同様のサービスは一般的ではありません。その特徴や歴史、そして変化について詳しく解説します。

キャリアメールの誕生

キャリアメールは、第2世代[携帯電話]の時代に、ショートメッセージサービス（SMS）の発展が不十分であったことが背景にあります。SMSは電話番号でメッセージを送受信できる便利な機能でしたが、以下のような課題がありました。

事業者間の相互接続: 当時、電話番号だけでは相手がどの事業者を利用しているか判別できず、異なる事業者間でのSMSのやり取りが困難でした。
仕様の差異: 携帯電話事業者や端末によってSMSの仕様が異なっていました。

これらの課題を解決するために、携帯電話事業者は電子メールの技術を応用し、独自のメールサービスを開発しました。これがキャリアメールです。キャリアメールでは、携帯電話のパケット通信機能を利用し、事業者が所有するメールサーバーを介してメールを送受信します。また、新規メールの着信通知は、SMSと同様に信号チャネルを使って端末に配信されました。

NTTドコモが1999年に「iモードメール」を開始したことを皮切りに、各事業者が独自のサービス名で携帯電話向けの電子メールサービスを開始し、これらが「携帯メール」と呼ばれるようになりました。スマートフォンが普及するにつれて、「キャリアメール」という名称が一般的になりました。

キャリアメールの特徴

キャリアメールの初期の利点の一つは、文字数制限がないことでした。一方、通信料金はSMSの方が安価でしたが、パケット定額制の普及により、必ずしもSMSが安価とは言えなくなりました。

キャリアメールの歴史的経緯

2G時代

キャリアメール誕生の背景には、日本のSMSの発展の遅れがありました。

SMSは元々、欧州で開発されたGSM規格の一部として1995年頃から商用化されました。SMSは、音声通話とは異なる信号チャネルを利用し、160文字までのメッセージを安価に送受信できるサービスでした。

日本で主流だった第2世代携帯電話規格は、NTTグループが中心となって策定したPDCでした。ドコモは1997年にSMSサービスを開始しましたが、海外とのメッセージ交換はできませんでした。これは、当時のドコモが、海外のネットワークとの相互接続仕様を策定しなかったためです。

一方、DDIセルラーグループとIDOは、ドコモの技術支配を避けるため、cdmaOne規格を導入しました。しかし、DDIセルラーグループ・IDOのSMSも海外とのメッセージ交換ができず、日本国内でも電話番号だけでSMSのやり取りができない状況が続きました。PHSと携帯電話の間でも、SMSのやり取りはできませんでした。

3G時代

2001年以降、各社が3Gサービスを開始し、SMSの国際的な相互接続が改善されました。しかし、国内では依然として、事業者によってSMSが交換できない状況が残りました。

各携帯電話事業者は、通信規格や文字メッセージサービス、端末の仕様が異なり、またPHSの普及期であったことから、利用者囲い込みのために相互接続を制限していました。そのため、2011年7月に国内の各携帯電話事業者とSMSの相互接続が実施されるまで、他の事業者の利用者とSMSをやり取りすることはできませんでした。

スマートフォン時代とキャリアメールの衰退

スマートフォンの普及とともに、フリーメールが普及しました。さらに、2011年にはLINEが登場し、若者を中心にコミュニケーション手段として利用されるようになりました。これにより、キャリアメールの利用者は減少し、現在では各種サービスへの登録などの理由で利用している人が多いと推測されます。

このような状況から、2021年には大手携帯電話3社がキャリアメールの提供を終了する新料金プランを発表しました。

メールアドレス・ポータビリティ

総務省は、携帯電話の乗り換え後もキャリアメールを使えるようにする「メールアドレス持ち運び」の検討を始めました。これにより、2021年12月からドコモとauで有料サービスが開始されました。

海外では、事業者が提供するメールアドレスは一般的ではなく、MMS（マルチメディアメッセージングサービス）が広く利用されています。MMSは電話番号でもメッセージを送受信できるため、キャリアメールのような問題は発生しませんでした。

キャリアメールのサービス名

各社は以下のようなサービス名でキャリアメールを提供していました。

NTTドコモ: ドコモメール、iモードメール、spモードメールなど
KDDI/沖縄セルラー電話: auメール、EZwebメールなど
ソフトバンク: S!メール、Eメール(i)など
Y!mobile: 電話サービス（タイプ1・2・3）、ケータイ用Eメールなど
楽天モバイル：楽メール

PHS事業者も独自のメールサービスを提供していました。

MMSとの関係

キャリアメールは、写真や動画を添付できるよう独自に進化しました。一方、海外ではMMSが普及しており、キャリアメールは存在しません。MMSは、世界標準のメッセージングサービスで、画像や動画などのマルチメディアファイルを送受信できます。

MMSとキャリアメールの大きな違いとして、MMSでは受信端末に合わせてコンテンツが変更される「コンテントアダプテーション」がありますが、キャリアメールでは原則として変更されません。また、MMSでは電話番号を宛先に指定できますが、キャリアメールではできません。

迷惑メール対策

キャリアメールは、迷惑メールの標的となりやすく、様々な対策が講じられてきました。

メールアドレスの推測困難化: 初期値の電話番号をランダムな英数字に変更
フィルタリング機能: 迷惑メールを自動的に排除
利用停止・送信数制限: 悪質な送信者の利用停止や送信数制限
* メールヘッダ閲覧サービス: メールの送信元を判別

これらの対策にもかかわらず、迷惑メールを完全に排除することは難しく、現在も対策が続けられています。

セキュリティ上の懸念

キャリアメールは暗号化率が低いという指摘があり、メールの漏洩や傍受の懸念があります。

まとめ

キャリアメールは、日本独自の進化を遂げたメールサービスですが、スマートフォンの普及やSNSの台頭により、その役割を終えつつあります。メールアドレスの持ち運びや迷惑メール対策など、様々な課題に対応しながら、日本の通信文化に深く根付いてきました。

もう一度検索