キリストの洗礼 (ティツィアーノ)

キリストの洗礼

ティツィアーノ・ヴェチェッリオの『キリストの洗礼』は、1511年から1512年頃に制作された油彩画であり、ヴェネツィア派の初期ルネサンスを代表する作品の一つです。この作品は、新約聖書に記されたイエス・キリストがヨルダン川で洗礼者ヨハネから洗礼を受ける場面を描いており、現在、ローマのカピトリーノ美術館に所蔵されています。

主題

この絵画の主題は、『新約聖書』の福音書に記述されている、ヨルダン川でのイエス・キリストの洗礼です。洗礼者ヨハネは荒野で生活し、人々に罪の告白を促して洗礼を授けていました。イエスが洗礼を受けに来ると、ヨハネは恐縮しましたが、イエスの懇願により洗礼を施しました。洗礼後、天が開け、聖霊が鳩の姿でイエスの上に降り、天からの声が「これはわたしの愛する子」と告げたとされています。

作品の特徴

ティツィアーノは、ヨルダン川のほとりを舞台に、洗礼者ヨハネがイエスに洗礼を施す場面を描いています。画面左に跪くヨハネがイエスの頭上に手を伸ばし、中央のイエスは川の中で上半身をかがめ、両手を合わせて洗礼を受けています。イエスの頭上には聖霊が白い光として描かれています。背景には、逃げ惑う人々や動物の死骸に群がるハゲワシが描かれ、物語に深みを与えています。

画面右下には、この作品の発注者であるスペイン人商人ジョバンニ・ラムが描かれています。彼は洗礼の目撃者として登場し、恍惚とした表情で洗礼の様子を見守っています。ヨハネはラムの守護聖人であり、この作品において重要な役割を果たしています。ティツィアーノは、人物を画面左上から右下の対角線上に配置することで、ダイナミックな構図を作り出しています。

この作品は、ジョルジョーネの絵画に見られる牧歌的な魅力は控えめで、ジョバンニ・ラムの存在が作品に特有の印象を加えています。また、風景描写や絵画技法は、他のティツィアーノの作品群、例えば『聖愛と俗愛』や『人生の三つの時代』、『ノリ・メ・タンゲレ』などと共通する特徴を示しています。さらに、洗礼者ヨハネは『人生の三つの時代』に登場する羊飼いと同じモデルが用いられたと考えられています。

帰属

ルネサンス期の美術史家マルカントニオ・ミキエルは、1531年にこの作品をティツィアーノの作と判断しました。しかし、19世紀には美術評論家のカヴァルカゼルとクロウがパリス・ボルドーネの作としましたが、後にジョヴァンニ・モレッリによって再びティツィアーノの作とされました。

来歴

この絵画は、16世紀末まで発注者のラム家で保管されていたようですが、1624年までには枢機卿カルロ・エマヌエーレ・ピオ・ディ・サヴォイアのコレクションに加わりました。その後、1750年にジルベルト・ピオ・ディ・サヴォイアによってローマ教皇ベネディクト14世に売却され、現在に至ります。

ギャラリー

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ディテール

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関連作品

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脚注

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参考文献

『西洋絵画作品名辞典』黒江光彦監修、三省堂（1994年）
Gronau, Georg (1904). Titian. London: Duckworth and Co; New York: Charles Scribner's Sons.
Ricketts, Charles (1910). Titian. London: Methuen & Co. Ltd.

外部リンク

カピトリーノ美術館公式サイト, ティツィアーノ・ヴェチェッリオ『キリストの洗礼』

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