クサギカメムシ

クサギカメムシ（Halyomorpha halys）

クサギカメムシは、カメムシの仲間で、全身が暗褐色をしており、見た目はほとんど無地に見えます。一般的に見られるカメムシの中では比較的大きな部類に入り、一般的なアオカメムシであるアオクサカメムシよりも大きく、ツヤアオカメムシよりわずかに大きい体サイズを持ちます。

分布と生態

この昆虫は、日本のほぼ全域に生息するごく一般的な種です。山野はもちろん、農耕地でも頻繁に姿を見せます。非常に多食性で、広範な種類の植物を餌とします。古くから果樹や豆類の害虫として知られています。また、寒くなると越冬場所を求めて家屋に侵入することが多く、その際に放出する強烈な悪臭のため、衛生害虫としても扱われています。過去には、1990年代に近畿地方を中心に発生したアオカメムシ類の大発生時に、このクサギカメムシも多数含まれていました。

標準和名「クサギカメムシ」は、クスノキによく見られることに由来するとされています。地域によっては、「ホウムシ」と呼ばれることもあり、サビガイダ、ススイロカメムシなどの古い呼び名も伝えられています。

特徴

体長は約13〜18ミリメートルです。全体的に扁平な、カメムシらしい体形をしています。全身は褐色系ですが、わずかにまだら模様や細かい黄褐色の斑点が見られることがあります。頭部は幅広く丸みを帯び、触角は体色と同じですが、関節部分が白くなっています。前胸部の両端はあまり突き出ません。幼虫は成虫に似ていますが、頭部や胸部、腹部側面に鋭い突起が並んでいます。

習性

多様な植物を餌とする植食性のカメムシです。茎や葉から汁を吸うほか、成虫は特に果実を好んで吸汁します。しかし、幼虫は果実を利用せず、主にマツやスギ、サクラ、キリ、クワなどの特定の樹木を栄養源とし、そこで繁殖や成長を行います。刺激を受けると強い悪臭を放つのが特徴で、その臭いは「最も臭気の強い種の一つ」とも評されるほどです。

生活環

本州中部では年に一度発生すると考えられています。成虫の姿で冬を越し、朽ち木や樹皮の下、あるいは家屋の隙間など、隠れた場所で越冬します。春になると越冬場所から現れて活動を開始し、様々な植物で栄養を摂取します。この時期に果樹などに被害を与えることがあります。成虫は夏まで生存し、交尾と産卵を繰り返します。産卵は6月下旬から7月上旬にかけて、宿主植物の葉裏に約28個の卵をまとめて産み付けます。孵化したばかりの一齢幼虫は卵塊の近くに集まりますが、成長するにつれて分散します。幼虫は5回の脱皮を経て成虫になり、新成虫は繁殖活動を行わずに越冬の準備に入ります。

害虫としての側面

クサギカメムシは、農業分野と衛生分野の両方で害虫として認識されています。

農業分野での被害

古くから豆類（ダイズ、ササゲなど）や果樹（ミカン、カキ、ナシ、モモ、リンゴなど）の重要な害虫です。特に果樹への被害は成虫によるものが大きく、越冬明けの個体による被害が顕著です。未熟な果実への吸汁は表面の成長を阻害し、商品価値を著しく低下させます。成熟後の吸汁は内部に空隙を作り、収穫後の腐敗の原因となることもあります。実験的には米に斑点米を発生させることも知られています。また、キリてんぐ巣病の病原体を媒介する可能性も指摘されています。国際的には、本種の侵入を防ぐために、特に自動車輸送船などで検疫が行われています。日本からの船で本種が発見され、入港が拒否された事例も複数あります。

衛生分野での問題

カメムシ全般は悪臭のため嫌われますが、クサギカメムシは越冬のために家屋に侵入しやすい性質があり、問題が大きくなります。特に東北地方などでは、秋に大集団で家屋に押し寄せることもあります。古い記録では、悪臭のために授業が中断された事例も報告されています。室内に入り込んだ個体は、壁の隅や衣類の間などに潜り込み、暖かさで活動的になって室内を歩き回ることがあります。刺激を受けると強烈な臭気を放ち、室内に充満して頭痛や吐き気を引き起こすこともあります。また、分泌物が皮膚炎を引き起こす事例も報告されています。

防除の困難さ

クサギカメムシの防除は難しい課題です。これは、被害が発生する場所（家屋や果樹園）が彼らの主たる生息地や繁殖場所ではなく、周辺の森林で生活しているためです。被害地で薬剤を散布しても効果が限定的になりがちです。屋内に侵入した個体は、殺虫する際に悪臭を放出するため、別の問題を引き起こします。広範な森林での薬剤散布は環境への影響が大きく現実的ではありません。家屋への侵入阻止も検討されていますが、根本的な解決は容易ではありません。

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