クサギ

クサギ（臭木）

クサギ（学名: Clerodendrum trichotomum）は、シソ科クサギ属に分類される落葉性の低木または小高木です。日本を含む東アジアの広い範囲に分布し、日当たりの良い原野や林縁などでよく見られます。

名称の由来と別名

和名である「クサギ」は、葉や枝に特有の臭気があることに由来します。この臭いは、人によっては不快に感じることもありますが、この特徴が名前の由来となりました。

学名の種小名「trichotomum」は、「三分岐の」という意味で、花序の枝分かれの様子を表しています。また、地域によっては「クサギリ」や「ヤマギリ」といった別名で呼ばれることもあります。これは、葉の形がキリ（桐）の葉に似ていることに由来します。

中国植物名では「海州常山（かいしゅうじょうざん）」と呼ばれます。

属名であるClerodendrum（クレロデンドロン）は、ギリシャ語で「運命」を意味する「kleros」と「樹木」を意味する「dendron」の合成語で、「運命の木」という意味を持ちます。

分布と変異

クサギは、日本では北海道から琉球列島まで広く分布しており、国外では朝鮮半島、台湾、中国にも見られます。

四国以南には、葉がより長く、花序がまとまって生じる変種であるショウロウクサギ (C. trichotomum var. esculentum) が分布し、沖縄ではこの変種がほとんどです。また、葉にほとんど毛がないアマクサギ (C. trichotomum var. yakusimensis) も存在します。

クサギは、平地から山地の日当たりの良い場所に群生し、道端などでもよく見られます。遷移においては、藪に侵入する最初の樹木として、先駆植物（パイオニア）の役割を果たします。自然界では山野に自生しますが、庭木としても植栽されることがあります。

形態と生態

クサギは、高さ2〜5mになる落葉広葉樹の低木または小高木です。枝は横に広がり、樹冠は横方向に広がります。樹皮は灰褐色で、丸い皮目が多く、成長すると縦に裂けてきます。若い木の樹皮はなめらかです。

葉は対生し、長さ2〜10cmの葉柄を持ちます。葉身は長さ7〜20cmの三角状卵形または広卵形で、先端が尖っています。葉縁は全縁で、質は柔らかく薄いです。若い枝や葉の裏面には柔らかな毛が密生しています。葉の形はヤナギ科のイイギリの葉に似ています。

枝や葉を傷つけると、名前の通り不快な強い臭いがします。秋には黄色っぽく紅葉し、葉が柔らかいため、傷んだり丸く縮れたりした状態で散ることが多いです。

花期は7〜9月で、枝先の葉腋に長い柄を持つ集散花序を形成し、甘い香りの白い花を多数咲かせます。花径は20〜25mmで、花弁は萼から長く突き出て開きます。雄しべ4個と雌しべ1個があり、雄しべが花の中心から長く突き出すのが特徴です。萼は5つに深く裂け、はじめは緑色ですが、結実時には平開して赤色になり、全体が薄紅色に見えます。

受粉には、昼間はアゲハチョウ科のチョウが、夜間はスズメガ科のガが訪れます。

果期は10〜11月で、液果は秋に赤色の萼の上に直径6〜7mmの藍色の実をつけ、赤色の萼とのコントラストが美しいです。果実は鳥に食べられて種子を散布すると考えられています。冬まで果実が残っていることもあります。

冬芽は対生し、毛に覆われた裸芽で紅紫色をしています。側芽の正面には、丸い心形の大きな葉痕があり、維管束痕がU字形に並んでいます。冬季の枝先は枯れることが多く、頂芽はあまり発達しません。

花粉媒介について

クサギの花は、明確な雄性先熟を示します。開花初日には雄しべが完全に展開しますが、雌しべは不完全です。2日目になると、雄しべはしおれ、雌しべの柱頭が裂開して受粉可能な状態になります。

開花当初は、雄しべと雌しべの両方が花冠から突き出ていますが、2日目には雄しべが下を向き、雌しべが上を向きます。3日目になると花冠と雄しべが脱落し、雌しべだけが残ります。このように、一つの花において、雄しべと雌しべの成熟時期が異なることで、自家受粉を防いでいます。

利用

クサギの葉は独特の臭いがありますが、茹でると食べることができ、若葉は山菜として利用されます。根は薬用、実は染料としても用いられます。

開ききって成長した葉はアクや苦味が強くなるため、伸びたばかりの若葉を利用します。採取時期は地域によって異なり、暖地では4〜5月頃、寒冷地では5月頃が適期です。収穫時には独特の臭いがしますが、しばらくすると気にならなくなり、さっぱりとした味がします。

調理する際は、茹でて十分に水にさらし、臭いが強い場合は一晩水にさらすと臭いが抜けます。和え物、炒め物、煮びたし、佃煮などにして食べられます。生の葉は天ぷらにもできます。茹でた葉は天日干しで保存でき、使うときに水で戻して調理することも可能です。

薬用としては、開花前の枝葉を天日乾燥させたものが生薬となり、「臭梧桐（しゅうごとう）」と呼ばれます。高血圧予防や神経痛に効果があるとされ、民間療法では1日量5〜10グラムを煎じて服用します。

果実は草木染めに利用され、媒染剤なしで絹糸を鮮やかな空色に染めることができます。赤い萼からは鉄媒染で渋い灰色の染め上がりを得られます。

クサギの青色色素はトリコトミンと命名されています。

海外では、観賞用として栽培されることもあります。繁殖は挿し木、株分け、根伏せなどで行います。

類似の植物

クサギ以外にも、臭気のために「クサギ」の名を持つ植物が存在します。

• - コクサギ：ミカン科の低木
• - ハマクサギ・イボタクサギ：シソ科

これらの植物も、クサギと同様に独特の臭いを持つことで知られています。

クサギは、その独特の臭いと美しい花、実、紅葉、多様な利用法を持つ魅力的な植物です。

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