ティロサウルス

ティロサウルス：海を支配した巨大肉食爬虫類

ティロサウルス（学名: Tylosaurus）は、後期白亜紀に生息していた大型の肉食海生爬虫類で、モササウルス科に属します。その名前はギリシャ語の「突起、握り球（ノブ）」を意味する「tylos」と「トカゲ」を意味する「sauros」に由来し、特徴的な円柱状の長い吻（ふん）から名付けられました。

形態と特徴

ティロサウルスの最大の特徴は、その吻にあります。他のモササウルス科の爬虫類とは異なり、前上顎骨の前方には歯が全くありません。上顎には24～26本、口蓋に20～22本、下顎に26本の歯が生えていました。椎骨は、頭骨から臀部までに29～30個、臀部に6～7個、尾に骨盤とともに33～34個、さらに尾の先端には56～58個が並んでいました。

初期の復元では、誤って気管軟骨に基づいて背びれが描かれることがありましたが、現在ではそのような突起はなかったと考えられています。

大きさと生態

ティロサウルスは、サメなどの魚類、首長竜、他のモササウルス科の爬虫類と生息域を共有しており、当時の西部内陸海路における支配的な捕食者でした。モササウルス科の中でも最大級の属の一つであり、特にT. prorigerは全長14メートルにも達しました。同属とされるハイノサウルス・ベルナルディやT. pembinensisも、12メートルを超える大型種でした。

発見と命名の歴史

ティロサウルスの発見と命名の歴史は、19世紀のアメリカの古生物学者、エドワード・ドリンカー・コープとオスニエル・チャールズ・マーシュの「化石戦争」と深く関わっています。1868年にコープが発見した断片的な化石は、当初「マクロサウルス・プロリゲル」と名付けられましたが、後に「リオドン」に再分類されました。マーシュは1872年に新属「リノサウルス」を提唱しましたが、この学名が既に使われていたため、「ランポサウルス」に変更。最終的にマーシュが新属「ティロサウルス」を確立し、コープの標本と新たな標本をこの属に分類しました。1911年には、C・D・バンカーにより、当時最大となる巨大な標本が発見されました。

1918年にはチャールズ・ヘイゼリアス・スタンバーグが、首長竜を腹部に収めたティロサウルスの化石を発見しました。この標本はスミソニアン博物館で組み立てられ、その腹部の首長竜もコレクションに加えられました。この標本は2001年まで情報が失われていましたが、エヴァーハートによって再発見・再記載され、2007年のIMAX映画『シーモンスター』の題材にもなりました。

また、ジョージ・フライヤー・スタンバーグが1926年ごろに収集したティロサウルスの頭骨の写真が残っており、その標本は現在FHSM VP-3として展示されています。2009年にはアラン・コムロスキーにより全長10メートルのティロサウルスが発見され、博物館で展示されています。ティロサウルスはサスカチュワン州やサウスダコタ州の地層からも発見されています。

分類

ティロサウルスには多くの種が命名されましたが、現在有効とされているのは、北アメリカのサントニアンと下部から中部カンパニアンの地層から発見されたTylosaurus prorigerと、カンザス州のサントニアンから発見されたTylosaurus nepaeolicusです。また、エヴァンハートが2005年に命名したTylosaurus kansasensisは、T. nepaeolicusの幼体に基づくものとされています。T. prorigerは、T. nepaeolicusのネオテニーとして進化したと考えられており、幼体の特徴が成体にも残っているのが特徴です。

近縁のハイノサウルスもティロサウルス亜科に分類されますが、2016年の研究ではティロサウルスと同属である可能性が指摘されています。ベルはティロサウルス亜科を、プリオプラテカルプス亜科と共に「Russellosaurinae」という非公式の単系統群に分類しました。

古生物学

小西卓哉らの研究によると、幼体のティロサウルスには特徴的な吻部の突起がなく、成長とともに急速に獲得することが示唆されています。これは性選択によるものではなく、現生のシャチのように獲物を突く機能があったと考えられています。

食性

ティロサウルスの化石からは、魚類、サメ、小型のモササウルス科、首長竜、ヘスペロルニスなど、多様な獲物を捕食していたことが明らかになっています。また、タルキートナ山脈から産出したハドロサウルス科の化石には、ティロサウルスの歯による噛み跡と考えられる穴が開いていることが判明しています。これは、死んだハドロサウルスをティロサウルスが食い漁り、腐敗ガスによる浮力を無効化するために歯で穴を開けたと推測されています。

ティロサウルスは、その巨大な体躯と強力な捕食能力で、白亜紀の海を支配した肉食爬虫類でした。その化石は、当時の生態系や生物進化を理解する上で貴重な情報を提供してくれます。

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