クリプチスタ

クリプチスタ (Cryptista)

クリプチスタは、真核生物の多様なグループの一つであり、主に藻類であるクリプト植物や、それに遺伝的に近縁であることが明らかになった単細胞性の原生生物を含むまとまりを指します。この名称は、しばしば「広義のクリプト植物」と同義で用いられ、これらの生物群をまとめて呼ぶ際に使用されます。

分類学上の位置づけの変遷

クリプチスタが真核生物全体の系統樹においてどのような位置を占めるかについては、分子系統解析技術の進歩に伴って大きく見解が変化してきました。かつて、真核生物の主要な分類群として提唱された「クロミスタ界」の一部に含まれると考えられていた時期がありました。この考え方に基づくと、クリプチスタは、やはり単細胞藻類や原生生物を含むハプティスタというグループと共に、「ハクロビア」と呼ばれるクレード（共通祖先から派生した単系統群）を構成するとされていました。

しかし、21世紀に入り、特に多様な生物群の遺伝情報（DNA配列など）を用いた大規模な系統解析が精力的に行われるようになると、この従来の分類体系は見直される必要に迫られました。広範な系統発生学的な研究、特に2016年頃に発表された重要な成果などにより、クリプチスタを含むグループが、陸上植物や様々な藻類を含むアーケプラスチダという巨大なスーパーグループの一部であることが強く支持されるようになりました。これは、クリプチスタの系統が、光合成に関連する細胞小器官である葉緑体を植物と同様に獲得した進化的な枝の比較的基部に位置することを示唆しています。

一方で、かつてクリプチスタと共にハクロビアを構成するとされたハプト藻（ハプティスタの一部）は、クロムアルベオラータなどを含むSARスーパーグループという、アーケプラスチダとは異なる系統群により近縁であることが明らかになりました。この発見により、ハクロビアというグループは解体され、クリプチスタとハプト藻は、見かけや一部の性質が似ていても、系統的には大きく離れた位置にあることが明確になりました。

下位分類群と現在の体系

クリプチスタという名称が用いられる現在の分類体系では、その下位にいくつかの主要な門（Phylum）が置かれることがあります。最もよく知られているのは、クリプト植物門 (Cryptophyta) です。クリプト植物は、多くが光合成を行う藻類であり、淡水や海水に広く分布しています。

近年では、カタブレファリス類 (Kathablepharids) と呼ばれる、主に捕食栄養性の鞭毛虫のグループを、クリプト植物とは独立したカタブレファリス門 (Kathablepharida) として扱う分類体系も提唱されています。このような体系を採用する場合、クリプト植物門とカタブレファリス門の両方が、より上位の分類群であるクリプチスタのもとにまとめられる形になります。これらの下位分類群は、それぞれ細胞構造や生活様式に特徴的な違いを持っています。

呼称と分類階級の傾向

最新の系統解析結果に基づき、クロムアルベオラータのように、かつて広義のクリプト植物の上位に位置づけられていた一部の分類群が、必ずしも単一の共通祖先から進化した単系統群ではない（側系統である）可能性が指摘されるようになっています。このような背景のもと、クリプト植物とその近縁群（すなわち広義のクリプト植物全体）を、真核生物の系統樹において独立した単系統のまとまりとして明確に区別し、その分類階級を引き上げる傾向が見られます。

具体的には、この独立したグループを界（Kingdom）あるいは亜界（Subkingdom）といった、より高次の分類階級に位置づけることが提唱されており、その際に「クリプチスタ」あるいは「クリプト生物（Cryptobiontes）」といった名称が用いられています。これは、クリプチスタに含まれる生物群が、真核生物の多様性の中で独自の進化史を持ち、主要な系統的枝を形成しているという、分子系統学的な知見に基づいた認識の現れと言えます。

このように、クリプチスタという名称は、最新の系統学的な研究成果を反映した、クリプト植物とその近縁群をまとめるための重要な分類群として用いられています。

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