クロアチア防衛評議会

クロアチア防衛評議会（HVO）とは

クロアチア防衛評議会（HVO）は、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争中に設立された軍事組織です。1992年、マテ・ボバンによってボスニア・ヘルツェゴビナ国内に建国が宣言されたヘルツェグ＝ボスナ・クロアチア人共和国の軍事組織として設立されました。

設立当初は、クロアチア権利党を母体とするクロアチア防衛軍をはじめとする他のクロアチア人武装組織も存在しましたが、徐々にHVOへと合流していきました。紛争終結後の2005年には、ボスニア・ヘルツェゴビナ軍に統合され、その歴史に幕を閉じました。

歴史的背景

1991年3月、クロアチア大統領フラニョ・トゥジマンとセルビア大統領スロボダン・ミロシェヴィッチの間で、ボスニア・ヘルツェゴビナ分割交渉（カラジョルジェヴォ会談）が秘密裏に行われていました。ボスニア・ヘルツェゴビナ中央政府が独立を宣言すると、セルビア人勢力はこれに反対し、武装攻撃を開始。ボスニア・ヘルツェゴビナ政府は領土全域を統制できなくなりました。

セルビア人勢力は、セルビア人が多数居住する地域をボスニア・ヘルツェゴビナから切り離すことを目指し、同様に、フラニョ・トゥジマンもクロアチア人が居住する地域の確保を目論んでいました。トゥジマン政権下のクロアチアは、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争への関与を通じて、クロアチアの領土をボスニア・ヘルツェゴビナのクロアチア人地域へと拡大するという目標を追求しました。

独立間もないボスニア・ヘルツェゴビナ共和国軍（ARBiH）は、軍備も兵員の訓練も不十分であり、クロアチア人勢力やセルビア人勢力の標的となりました。

1991年11月18日、ボスニア・ヘルツェゴビナ・クロアチア民主同盟の強硬派は、「ヘルツェグ＝ボスナ・クロアチア人共同体」の設立を宣言。この共同体は、ボスニア・ヘルツェゴビナからの独立を標榜しました。そして、1992年4月8日、HVOがヘルツェグ＝ボスナ・クロアチア人共和国の軍事組織として結成され、クロアチア人勢力とボシュニャク人勢力との間で武力衝突（クロアチア・ボスニア戦争）が勃発しました。

1992年から1994年の停戦合意までの間、HVOはヘルツェグ＝ボスナ地域のクロアチア本国への編入を目指し、ボシュニャク人市民に対する民族浄化や、強制収容所での虐待などに関与しました。

ワシントン合意とデイトン合意

1994年、アメリカ合衆国の仲介によるワシントン合意により、ボスニア・ヘルツェゴビナ共和国軍とHVOの戦闘は停止。ヘルツェグ＝ボスナ・クロアチア人共和国はボスニア側と統合され、ボスニア・ヘルツェゴビナ連邦となりました。さらに、スプリト合意によってクロアチア共和国軍がボスニア・ヘルツェゴビナ領内に入ることを認められ、セルビア人勢力との戦いが強化されました。

この合意とクロアチア軍の投入は、戦局を大きく転換させ、嵐作戦の成功につながりました。嵐作戦によってクライナ・セルビア人共和国が制圧され、20万人のセルビア人住民がクロアチアを追放されました。また、ビハチの包囲を解き、ボスニア・ヘルツェゴビナ共和国軍第5軍団と合流しました。その後も、合同作戦やNATOの空爆によってセルビア人勢力への攻勢が続けられました。

1995年11月21日、デイトン合意が締結され、ボスニア・ヘルツェゴビナは、ボスニア・ヘルツェゴビナ連邦とスルプスカ共和国の2つの構成体によって形作られることが決定。ボスニア・ヘルツェゴビナ共和国軍とHVOは、ボスニア・ヘルツェゴビナ連邦軍の構成要素となりました。

2005年には、ボスニア・ヘルツェゴビナ連邦軍とスルプスカ共和国軍が統合され、ボスニア・ヘルツェゴビナ軍となり、HVOは解体されました。

組織と戦争犯罪

HVOは4つの作戦区域に分かれており、それぞれ南東ヘルツェゴビナ、北西ヘルツェゴビナ、中央ボスニア、ポサヴィナ地方でした。

HVOの政治的・軍事的指導者の多くが、戦争犯罪の嫌疑によって旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷（ICTY）で訴追を受けました。人道に対する罪、ジュネーヴ諸条約への重大な違反、戦時国際法への違反などがその内容です。

ティホミル・ブラシュキッチ、ムラデン・ナレティリッチ、ダリオ・コルディッチなど、有罪判決を受けた者も多数存在します。また、スロボダン・プラリャクは、判決直後に法廷内で服毒自殺しました。

関連項目

ユーゴスラビア紛争
アフミチ虐殺
* ラシュヴァ渓谷の民族浄化

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