クロア・ド・フー

クロア・ド・フー：フランス戦間期の右翼団体とその影

クロア・ド・フー（Croix-de-Feu）は、第一次世界大戦後のフランスで隆盛を極めた右翼団体です。日本語では「火の十字団」と呼ばれ、当時の左翼からはファシズム団体と警戒されましたが、その思想は穏健な保守主義に分類され、他の右翼団体とは対立関係にありました。

設立と台頭

1927年、モーリス・ダルトワによって、第一次世界大戦の退役軍人の相互扶助機関として設立されました。香水王として知られるフランソワ・コティからの資金援助を受け、『フィガロ』紙の本部に本部を置くなど、華々しいスタートを切ります。当初は退役軍人を中心とした組織でしたが、次第に一般の在郷軍人も加わり、右翼政治団体としての性格を強めていきました。

1931年、フランソワ・ド・ラロックが指導権を握ると、クロア・ド・フーはより強硬な武装団体へと変貌を遂げます。徹底した規律と装備を整え、他の右翼団体を圧倒する勢いで支持者を拡大し、1934年には10万人以上の団員を擁するまでに成長しました。

スタヴィスキー事件と共和政

しかし、1934年のスタヴィスキー事件を巡る混乱の中で、クロア・ド・フーは重要な選択を迫られました。右翼勢力の暴動が第三共和政を転覆寸前にまで追い込む中、ラロックは団員に対しデモや暴動への参加を禁じました。この決定は、共和政の存続を許す結果となり、クロア・ド・フーの思想的な曖昧さを露呈することとなりました。

人民戦線と政党化

1936年、人民戦線が政権を掌握すると、クロア・ド・フーは解散を余儀なくされます。ラロックは、武力による政府転覆を放棄し、フランス社会党（現在のフランス社会党とは無関係）を結成、議会政治への参加を図りました。民族主義と反共主義を掲げ、政治活動を継続します。

ヴィシー政権と終焉

第二次世界大戦下、ナチス・ドイツによるフランス占領下では、「ペタン元帥を規律正しく支持する」として党名をフランス社会進歩に変更、さらに1941年にはフランス戦士団に合流しました。党員の中にはヴィシー政権に入閣した者もいましたが、ラロック自身は閑職に甘んじ、実権獲得を目指したものの失敗に終わります。終戦後、フランス社会党は再結成を禁じられ、ラロックも病死しました。1961年、ドゴール大統領によって名誉回復がなされました。

著名な団員と影響

クロア・ド・フーには、著名なテニス選手であるジャン・ボロトラや、著名な飛行士であるジャン・メルモーズなども参加していました。また、後のフランス大統領となるフランソワ・ミッテランも、若い頃にクロア・ド・フーに参加していたという説があります。クロア・ド・フーは、フランスの戦間期政治に大きな影響を与え、その活動は現代に至るまで議論の的となっています。

参考文献

ロバート・O・パクストン『ヴィシー時代のフランス 対独協力と国民革命1940-1944』柏書房〈パルマケイア叢書〉
剣持久木『記憶の中のファシズム 「火の十字団」とフランス現代史』〈講談社 選書メチエ〉

関連項目

* 労働、家族、祖国（ヴィシー政権のモットー）

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