クロミンククジラ

クロミンククジラ (Balaenoptera bonaerensis)

クロミンククジラは、ナガスクジラ科ナガスクジラ属に分類されるヒゲクジラの一種です。主に南半球の南極海に生息しており、以前はミンククジラと同一種とされていましたが、現在では別種として扱われています。

分類

かつてはミンククジラ (Balaenoptera acutorostrata) と同じ種とされていましたが、研究が進むにつれて別種であることが判明しました。南半球に生息する通常型には、新たに Balaenoptera bonaerensis という学名が与えられました。英名では「Southern Minke Whale」と呼ばれています。和名としては「クロコイワシクジラ（黒小鰯鯨）」という名称もありますが、イワシクジラとの近縁関係は特にありません。

形態

成体の体長は8.5 - 12メートル程度で、ミンククジラよりもやや大きいです。形態はミンククジラと非常によく似ており、過去には同一種として扱われていたほどです。しかし、顕著な違いとして、(ナミ)ミンククジラの手鰭には白い模様がありますが、クロミンククジラにはそれがありません。

生態

食性

クロミンククジラは南極海に豊富に生息するオキアミやプランクトンを主食としています。ロス海では魚類を捕食することも確認されており、元来は雑食性であったと考えられています。大型鯨類の減少によりオキアミ資源に余剰が生じたため、オキアミへの依存度が高まったという説もあります。

回遊

他のヒゲクジラと同様に、クロミンククジラも高緯度海域の摂食域と低緯度海域の繁殖域の間で大回遊を行います。夏の間は南極海で採餌し、秋から冬にかけて南太平洋西側の温暖な海域で繁殖すると考えられています。繁殖域ではほとんど捕食を行わないとされていますが、小型であることや脂肪の蓄積量が少ないことから、何らかの摂食が行われている可能性も指摘されています。回遊範囲は赤道付近まで達しますが、通常は赤道を越えることはありません。

繁殖

調査捕鯨の結果から、クロミンククジラの成熟したメスの90%以上が毎年妊娠しており、繁殖力が非常に強いことが示唆されています。しかし、南極海のミンククジラは、1970年代に日本とソ連が集中して捕獲を開始した頃から、生息数の増加が停止していることが観察されています。これは、他の捕鯨対象種が増加傾向にある中で特異な現象であり、ザトウクジラとの優先種交代が原因の一つとして考えられていますが、全てを説明できるわけではありません。

発声

クロミンククジラを含むザトウクジラ以外のナガスクジラ科は、100ヘルツ以下の低い音域で鳴きます。これは、他のヒゲクジラ類が1500ヘルツ以上の高い音域で鳴くのとは対照的です。クロミンククジラはシャチに襲われた際、戦うよりも逃げる傾向が強く、この発声音域の違いもシャチへの対策の違いとして進化した可能性があります。また、少なくともミンククジラ、ザトウクジラ、イワシクジラは無呼吸下での発声が可能であると考えられています。

生息数

クロミンククジラの生息数については諸説あります。商業捕鯨モラトリアム以前の生息数は定かではありませんが、1970年代には20万頭程度と報告されたことがあります。1980年代には、南極海・南半球水域群のミンククジラ全体で76万頭が生息していたと推定されていますが、国際捕鯨委員会（IWC）の科学委員会による検討でも合意が得られていません。2012年の暫定報告では、推定生息数は51万頭以上と下方修正されています。また、1980年代と比較して個体数に目立った増減は認められないとする指摘もあります。

人間との関係

捕鯨問題

小松正之氏の「海のゴキブリ」発言以降、一部で「害獣論」が支持されるなど、捕鯨論争が激化しました。しかし、「鯨食害論」の理論的正当性については国内外から批判があり、2009年には日本政府代表が鯨類による漁業被害を撤回しました。南極海における日本の調査捕鯨については、国際司法裁判所による判決で日本側が敗訴し、これが日本が国際捕鯨委員会を脱退する原因の一つになったとされています。

保護

クロミンククジラは、「ボン条約」の保護対象種に指定されています。

ホエールウォッチング

北半球のミンククジラやドワーフミンククジラと異なり、クロミンククジラを主対象としたホエールウォッチングは一般的ではありません。しかし、南極海ではザトウクジラと共に比較的観察できる可能性が高く、人間に接近する傾向が強いため、カヤックやゾディアックボートを使って至近距離での観察が可能です。

参考文献

* 村山司 『鯨類学』東海大学出版会〈東海大学自然科学叢書〉、2008年。ISBN 978-4-486-01733-2。

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