クロルピクリン

クロルピクリンとは

クロルピクリン（chloropicrin）は、トリクロロニトロメタン（trichloronitromethane）の別名を持つ有機化合物です。化学的には、メタンの水素原子3つが塩素原子に、残りの1つがニトロ基に置換された構造をしています。クロロピクリン、塩化ピクリンとも呼ばれることがあります。

日本では農薬として登録されている一方で、毒物及び劇物取締法など複数の法律によって規制されています。また、過去には化学兵器としても使用された歴史を持ちます。

性質

クロルピクリンは、常温常圧下では粘性のある無色の液体として存在し、強い刺激臭が特徴です。水には溶けにくく、蒸気は空気よりも重いです。蒸気の相対密度は5.7で、空気中に拡散すると下に滞留しやすい性質があります。

衝撃や熱を加えることで爆発する危険性があり、光や熱によって分解すると、塩化水素や窒素酸化物といった有毒ガスを発生させるため、取り扱いには十分な注意が必要です。

開発

1848年、イギリスの化学者ジョン・ステンハウスによって初めて合成されました。彼は、次亜塩素酸ナトリウムとピクリン酸を反応させることでクロルピクリンを合成し、ピクリン酸にちなんでこの名前を付けましたが、構造的な関連性はありません。

1918年には、穀物貯蔵時の燻蒸剤としての有用性が明らかになりました。日本では、1921年に三共（現在の第一三共）が初の合成農薬として製造を開始しました。

用途

第一次世界大戦中には、ホスゲンと同様に窒息性の毒ガス兵器として使用されました。ただし、その毒性はホスゲンに比べて低いとされています。クロルピクリンは目に対する刺激作用が強く、催涙ガスのような効果もあります。

アメリカ合衆国では、フッ化スルフリルを用いた住宅燻蒸の際、内部に人がいないか確認するために使用されることがあります。これは、クロルピクリンの刺激臭によって人の存在を検知するためです。

日本では、土壌燻蒸剤として農薬登録されており、土壌の殺菌や殺虫のために広く利用されています。使用方法は、地中に薬剤を注入した後、地面をビニールシートで覆うことで、土壌全体にクロルピクリンを作用させるというものです。

主な商品名：
クロールピクリン
クロピク
ドジョウピクリン
ドロクロール

クロルピクリンとクロルピクリン製剤は、日本では毒物及び劇物取締法により劇物に指定され、厳しく規制されています。一方で、PRTR法（特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律）では、トリクロロニトロメタン（クロロピクリンの別名）が第一種指定化学物質に指定されています。このように、同一の化合物でありながら、法律によって異なる名称が用いられている点に注意が必要です。

事件

過去には、クロルピクリンに関連する事件も発生しています。

1968年2月26日：成田空港建設に反対するデモ隊と警察が衝突した際、クロルピクリンを浴びた警察官が負傷しました（成田デモ事件）。
1971年8月7日：大阪府堺市で、クロルピクリンを主成分とする農薬を散布した結果、周辺住民80人が吐き気や目の痛みを訴え、1人が意識不明の重体となりました。
1982年：秋田県で、クロルピクリンを用いた殺人事件が発生しました。

関連情報

ツィクロンC: クロルピクリンを主成分とした農薬です。なお、ホロコーストで使用されたツィクロンBは、シアン化合物を有効成分としています。
南根腐病: クロルピクリンが防除に使用される土壌病害です。

外部リンク

クロルピクリン工業会
『クロルピクリン』 - コトバンク
『クロロピクリン』 - コトバンク

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