クロロエチレン

クロロエチレン：性質、製造、歴史、そして安全性

クロロエチレンは、塩素原子とビニル基を持つ有機化合物です。化学式はCH₂=CHClで表され、塩化ビニルという名称でも広く知られています。IUPAC名はクロロエテンです。この化合物は、付加重合反応によって、私たちの生活に身近なポリ塩化ビニル（PVC）を生成する重要な原料として機能します。PVCは単に塩化ビニルと呼ばれることもありますが、クロロエチレンはPVCの原料となる単量体（モノマー）であることを明確にするために、塩化ビニルモノマーと呼ばれることもあります。

製造方法：環境負荷低減への取り組み

クロロエチレンの工業的生産には、主に直接塩素化法とオキシ塩素化法の2つの方法があります。

直接塩素化法では、まずエチレンと塩素を塩化鉄(III)触媒下で反応させ、1,2-ジクロロエタンを合成します。エチレンはナフサの熱分解、塩素は塩化ナトリウムの電気分解によって得られます。その後、1,2-ジクロロエタンを加熱・加圧下で分解することで、クロロエチレンと塩化水素が生成されます。

オキシ塩素化法では、直接塩素化法で副生成物として得られた塩化水素を、空気（または酸素）と混合し、塩化銅(II)触媒存在下でエチレンと反応させ、再び1,2-ジクロロエタンを生成します。これを熱分解することで、クロロエチレンを得ます。

この2つの方法を組み合わせることで、反応プロセス全体での副生成物を最小限に抑え、環境負荷を軽減できます。この併用製法は、1950年代以降広く普及しています。2016年度の日本における塩化ビニルモノマーの生産量は2,588,296トン、工業消費量は435,644トンにのぼります。

歴史：発見から現代まで

クロロエチレンは、1835年にユストゥス・フォン・リービッヒとその弟子であるアンリ・ヴィクトル・ルニョーによって発見されました。当時、ジクロロエタンを水酸化カリウムのエタノール溶液で処理することで合成されました。その後、ポリ塩化ビニルの原料として工業的に大規模生産されるようになり、私たちの生活に欠かせない物質となりました。しかし、その安全性に関する懸念も同時に存在します。

安全性：発がん性とリスク管理

クロロエチレンは引火性が高く、水分の存在下では鉄を腐食させる性質があります。また、特定の条件下では過酸化物を生成し、爆発的な重合を起こす可能性もあるため、取り扱いには細心の注意が必要です。

さらに重要なのは、国際がん研究機関（IARC）によって発がん性（Type1）があると分類されている点です。これは、塩化ビニル樹脂製造に従事する労働者における肝血管肉腫（肝がんの一種）の発生率の高さ、疫学調査、動物実験の結果に基づいています。かつてはエアロゾルの噴霧剤として使用されていましたが、1970年頃には使用が禁止されました。現在では、ポリ塩化ビニルの製造原料として使用されていますが、労働安全衛生法では第2類特定化学物質に指定されており、厳格な管理の下で取り扱われています。

まとめ

クロロエチレンは、ポリ塩化ビニル生産に不可欠な物質であり、私たちの生活に多大な貢献をしています。しかし、その製造過程や取り扱いにおける安全性、環境への影響についても十分に考慮する必要があります。今後も、より安全で環境負荷の低い製造方法の開発、適切なリスク管理が求められます。

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