グスク時代

グスク時代とは

グスク時代は、沖縄本島、先島諸島、そして奄美群島において、「貝塚時代」や「先島先史時代」に続く時代区分として位置づけられています。この時代は、グスクと呼ばれる独特な城塞が築かれたこと、農耕社会が確立したこと、そして交易が活発化したことなど、社会構造が大きく変化した時期とされています。開始時期は11世紀から12世紀頃、終了時期は琉球王国が成立する15世紀前半から16世紀頃とされていますが、研究者によって見解が異なります。

時代名称の変遷

「グスク時代」という名称が定着する以前は、歴史学者の間で「按司時代」と呼ばれていました。これは、琉球の歴史書である『おもろさうし』に基づき、この時代が按司と呼ばれる支配者による武力支配の時代と解釈されたためです。しかし、考古学者の高宮廣衞が、グスクという遺跡に焦点を当て、「グスク時代」という名称を提唱しました。この名称は、1970年代の「グシク論争」を経て、1980年代に歴史学者の高良倉吉が使用したことで広く受け入れられるようになり、「按司時代」はほとんど使われなくなりました。

グスク時代の年代範囲

グスク時代の年代範囲については、研究者の間で様々な議論がなされてきました。1970年代には10世紀頃が開始時期とされていましたが、1980年代には12世紀頃とする説が主流となりました。これは、12世紀頃に現れた土器が、農耕社会の発展を反映していると考えられるようになったためです。また、グスクの出現時期についても議論があり、城塞として機能したグスクの出現を重視する立場と、集落や祭祀施設としてのグスクも考慮に入れるべきだとする立場があります。終了時期については、琉球王国が成立した15世紀前半、または王政が確立した16世紀頃とする説があります。

先島諸島ではグスク時代に相当する時代を「スク時代」と呼び、奄美群島では「古代並行期」や「中世並行期」といった名称が使われることもあります。奄美群島におけるグスク時代に相当する「按司世」は、9世紀頃から始まったとされています。

グスク時代の主な特徴

グスク時代の主な特徴は、以下の3つです。

グスクと按司の登場

グスクは、奄美群島から先島諸島にかけて点在する城塞で、16世紀前半までに建造されました。グスクは、当初は集落や祭祀施設として機能していましたが、次第に城塞としての機能を備えるようになります。また、グスクの主である按司と呼ばれる支配者が登場し、地域を統治するようになりました。按司たちは互いに抗争を繰り広げ、最終的には北山、中山、南山の三大勢力（三山）が誕生します。その後、三山は統一され、琉球王国が成立しました。

農耕社会の確立

グスク時代は、琉球列島で最初の農耕時代と考えられています。遺跡からは、炭化した米や麦、牛の骨などが出土しており、この時代に農耕が本格的に始まったことがわかります。また、石灰岩台地が畑地として利用されるようになり、集落の数も増加しました。農耕の発展は、人口増加と政治的勢力の形成に大きく貢献しました。

対外交易の開始

グスク時代には、九州や中国との交易が活発化しました。奄美・沖縄諸島からは貝殻やヤコウガイが輸出され、代わりに土器や鉄器、中国製の陶磁器などが輸入されました。交易は、琉球の社会と文化に大きな影響を与えました。

グスク時代に対する反論

グスク時代に対する反論も存在します。来間泰男は、グスクを軍事的な施設ではなく、按司や住民にとって象徴的な建造物であると主張しています。また、農耕社会の確立についても、遺跡からの出土物のみで判断するのは早計であり、グスク時代以降の農業状況を考慮する必要があると指摘しています。また當眞嗣一は、琉球の内部で独自の発展を遂げたとする「内的発展論」に反対し、交易を通じて琉球外部からの影響によって発展したと主張しています。

王統史

グスク時代には、三山時代以前の王統に関する記述が文献に残されています。『中山世譜』には、琉球開闢の際に現れた男女の子孫である天孫氏が琉球を統治したと記されています。また、天孫氏の末裔を討ち取った舜天王統、その後の英祖王統が続いたとされています。しかし、これらの王統は伝説上の存在である可能性が高く、実際に明との交易を開始した察度王統が最初に実在した王統であると考えられています。

まとめ

グスク時代は、琉球史において重要な時代区分であり、その社会変容は後の琉球王国へと繋がっていきます。しかし、グスク時代に関する様々な見解があり、今後も議論が続けられると考えられます。この時代を理解することは、琉球の歴史と文化を深く理解するために不可欠です。

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