舜天

舜天（しゅんてん）

舜天（1166年 - 1237年）は、琉球の歴史において、舜天王統の開祖とされる伝説的な人物です。琉球の正史では、初代琉球国王と位置づけられています。在位は51年（1187年 - 1237年）とされ、神号は尊敦（そんとん）です。

舜天の名前と神号

「舜天」という名前は、「首里の王」を意味する「首里天（しゅりてん）」に由来すると考えられています。神号の「尊敦」もこれに近い音を持ち、中国の伝説的な聖天子である舜を想起させる名前です。舜天王統の3代の名前は、琉球の人名の漢字・かな表記とは異なり、後世に付けられた諡（おくりな）である可能性が指摘されています。また、『中山世譜』では舜天の神号を「尊敦」としていますが、『中山世鑑』では「舜天尊敦」と記されています。東恩納寛惇は、「尊敦（スントゥン）」と「舜天（シュンティン、スンティン）」の方言名が、同じ根源を持つ語ではないかと考察しています。

舜天の経歴

実在性

舜天の実在を証明する史料は残っておらず、彼を祖とする舜天王統も、伝説上の存在と考えられています。しかし、伊波普猷は、1522年の「国王頌徳碑」の碑文から、舜天を実在の人物と解釈し、舜天王統の成立から碑の建立までの期間から、舜天の事績が多少は伝承されていたと述べました。また、喜舎場一隆は、舜天の活動期が『おもろ』の盛行期である13世紀初頭であるにもかかわらず、舜天がおもろで聖王として謡われていないことを指摘し、舜天の実在を否定的に考えられるとしました。しかし、1543年の「国王頌徳碑」には「大琉球国中山王尚清は、そんとんよりこのかた二十一代の王の御くらいを、つぎめしよわちへ」と記されており、実在性を完全に否定することもできないと述べています。

出自

『中山世鑑』や『中山世譜』によれば、舜天の父は源為朝とされています。為朝は、保元の乱で敗れて伊豆大島に流された後、琉球に渡ったという伝説があります。舜天の母は、大里按司の妹と伝えられていますが、大里が南城市大里か糸満市字大里のどちらであるかは不明です。舜天の誕生年については、『中山世譜』に「乾道二年（1166年）」とありますが、『中山世鑑』には記述がありません。このため、『中山世譜』は、舜天が15歳で浦添按司になった記述から逆算して生誕年を割り出したと考えられています。

幼年・青年期

為朝と大里按司の妹との間に生まれた舜天は、幼名を尊敦と名付けられました。為朝は故郷へ帰ろうとしますが、船が難破し、妻子を置いて帰らざるを得なかったという逸話が残っています。舜天とその母が、父の帰りを待ちわびた洞窟が、浦添市牧港にあります。尊敦は成長し、15歳で浦添按司となりました。その後、首里で天孫氏を滅ぼした利勇を討ち、22歳で琉球国中山王に即位したとされています。

即位後

舜天の即位後の事績については、『中山世鑑』に「恩光に照らされて」という表現があり、『保元物語』の引用とされています。舜天は法律を制定し、それに基づいた政治を行ったと伝えられています。また、『球陽』によれば、舜天が王位に就いた頃から、暦には夏正が使用されたとされています。舜天王統は浦添城を居城としていたとされ、首里に遷都したのは、察度王統か三山統一後の第一尚氏王統であると考えられています。舜天が統治していたとされる時代には、各地に小規模なグスクが点在しており、沖縄本島全域を支配した人物はいなかったとも考えられています。舜天は、頭の右上にこぶがあり、それを隠すために髪を右寄りに結っていたとされ、即位後に人々もそれに倣ったと伝えられています。

琉球における為朝伝説

源為朝が琉球に渡ったという伝説は、琉球処分後の1922年に、運天港近くに「源為朝公上陸之跡石碑」が建立されたことで、広く知られるようになりました。薩摩侵入後に編纂された『中山世鑑』の編集者である羽地朝秀は、「日琉同祖論」を唱え、舜天と為朝伝説を合わせた人物として記述しました。しかし、薩摩侵入以前から、為朝伝説は琉球に存在していたと考えられています。東恩納寛惇は、『中山世鑑』の舜天が為朝の子であるという記述を否定できないとし、伊波普猷や真境名安興も同様の立場でした。

『椿説弓張月』にみる舜天

曲亭馬琴の『椿説弓張月』は、為朝を主人公とした物語で、その子供である「舜天丸」が琉球を治めるという内容です。この作品は、当時の人々にとって異国情緒あふれる琉球を舞台にしており、多くの登場人物が『中山伝信録』や『琉球談』から取り入れられています。「舜天丸」は舜天をモデルとしていますが、母は「白縫」という架空の人物です。

陵墓・拝所

舜天を祀ったとされる陵墓や拝所が、沖縄各地に存在します。北中城村の「ナスの御嶽」には、舜天と舜馬順煕が葬られているとされています。南城市の「食栄森御嶽」には、舜天の墓とされるものがあり、人骨や水晶、銅鏡が発見されています。また、同字には、舜天の母と伝えられる大里按司の妹の墓もあります。崇元寺には、舜天をはじめとする歴代琉球国王の位牌が祀られていました。

まとめ

舜天は、琉球の歴史において伝説的な存在であり、その実在性については議論が続いています。しかし、彼を祖とする舜天王統は、琉球の歴史に大きな影響を与え、様々な伝説や物語を生み出してきました。舜天に関する研究は、琉球の歴史と文化を理解する上で、重要な役割を果たしています。

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