グリュック王国

北海道帯広市にかつて存在したテーマパーク「グリュック王国」（Glücks Königreich）は、ドイツの美しい景観と文化をモチーフにしたユニークな施設でした。運営は、地元不動産開発を手がけるぜんりん地所建設の子会社、株式会社ぜんりんレジャーランドが行いました。

開園の背景とコンセプト

1980年代の好況期、北海道の既存産業が伸び悩む中、観光振興による地域活性化を目指し、帯広空港近郊に建設されました。運営会社社長がドイツを旅した際、その美しい街並みや自然、そして「未来の子供たちへ良いものを残す」というドイツの文化に深く感銘を受けたことが、このドイツ風テーマパーク構想の原点となりました。中世ドイツ（神聖ローマ帝国時代）の雰囲気を基調とし、特にグリム童話とグリム兄弟の世界に焦点を当て、彼らにゆかりのあるドイツのヘッセン州やニーダーザクセン州の歴史的建築・建造物を再現することを目指しました。

園内の構成と再現へのこだわり

1989年7月1日の開園時の敷地面積は約10万平方メートル、大人入場料は1,500円でした。園内は複数のエリアで構成されていました。

南エリア: 約3.3万平方メートルの広さを持つ遊園地「グリムの森」や、グリム兄弟の住居と周辺環境を再現した博物館「グリムの村」がありました。
北エリア: 中心は、ドイツのマルクト広場を模し、実物大のドイツ建築が並ぶ「グリムの街」です。
* 駐車場: 粉挽き風車をイメージしたトイレを備え、1600台を収容できる「グリムの駐車場」と呼ばれました。

1992年には、全67室のホテル「シュロスホテル」（当初は「グリムの王城」）が加わり、全五つのエリア構成となりました。このホテルは、ドイツの代表的な名城である「ビュッケブルグ城」の内装や壁画まで忠実に再現したもので、同年8月2日に開業しました。

園内の再現は徹底しており、例えばカール大帝伝説に登場する高さ8メートルのブレーメンのローラント像が来場者を出迎え、ほら吹き男爵の噴水やブレーメンの音楽隊の像なども配置されました。マルクト広場に並ぶ15世紀から17世紀の木組みの家々は、ヴェーザールネサンス様式を代表するハーメルンのライストハウスなどを模しており、ドイツから取り寄せた素焼波形瓦と現地の瓦職人によって再現されました。また、ハーナウ市から取り寄せたグリム兄弟の銅像が本場の市庁舎前を模した場所に立ち、園内の舗道石には当時の東ベルリンのフリードリヒ通りで実際に使用されていたものが使われるなど、細部へのこだわりが見られました。遊具についても、ドイツ製のメルヘン調のものが選ばれました。

集客と経営の変遷

グリュック王国はホテルを除き、当地の観光シーズンに合わせて冬季休業し、ゴールデンウィーク前から営業を再開するのが通例でした。開園当初は順調な集客を記録し、最初の1年間で約74万人が入場したほか、1991年と1992年には年間約70万人が来場しました。

しかし、その後は入場者数が減少に転じ、1997年には年間約30万人まで大きく落ち込みました。これに伴い運営会社の経営も悪化し、1996年12月期には売上高が前期比約2割減の約6.57億円となり、約4.63億円の経常赤字を計上、累積損失は約23.81億円に膨れ上がりました。

再建への試みと閉園

経営難に直面した運営会社は、様々な再建策を模索しました。1998年には、園東側の敷地に大規模な屋内プール施設「ブルーハワイアン」を開設し、一体的に運営する構想が持ち上がりましたが、これは実現しませんでした。2000年には、漫画家いがらしゆみこ氏ゆかりの団体との連携による「いがらしゆみこ美術館」開設や、テレビドラマのロケ地としての貸し出しなど、新たな収益源確保を目指すテコ入れも行われました。

2003年には、ビュッケブルグ城を再現したホテル棟などの大規模な修繕が必要となり、例年のゴールデンウィーク前からの営業再開を7月1日に延期しました。資金繰りのため、ホテルの一部を貸し出してアンチエイジング医療を行う計画や、遊具を無料で貸し出してホテル運営のみで営業を続ける案なども検討されましたが、いずれも交渉がまとまりませんでした。このため、同年6月24日には7月1日の営業再開を断念し、さらに7月18日には年内の営業再開自体を断念しました。

当初は翌2004年5月の営業再開を目指し、スポンサー探しを含む新たな事業計画策定が進められましたが、新たな出資企業は見つからず、休園状態が続きました。そして、2007年2月5日、ついに営業再開を断念し、正式に閉園となりました。

閉園後の状況

閉園後、土地と建物は競売にかけられる予定でしたが、長期間にわたり放置されました。2011年頃には、いわゆる「廃墟ブーム」の影響もあり、不法侵入や窃盗などが相次ぎ社会問題となりました。外国人投資家によるホテル開発構想も存在しましたが、リーマンショックの影響で立ち消えとなりました。現所有者による新たな活用策も具体化しておらず、2020年時点においても、大型建築物や観覧車などがそのまま残存している状態です。

園内では1994年7月3日に遊具「ウルトラスピン」で乗客が落下し負傷する事故も発生しました。

なお、閉園前後に、THE YELLOW MONKEYの「バラ色の日々」、Do As Infinityの「深い森」、YUKIの「STARMANN」といった楽曲のプロモーションビデオ撮影や、ゲームソフト「夜想曲」の舞台の一部として使用されたことでも知られています。

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