ケダモノの嵐

UNICORN 『ケダモノの嵐』徹底解説

『ケダモノの嵐』は、日本のロックバンドUNICORNが1990年 10月1日にCBSソニーからリリースした4枚目のオリジナル・アルバムです。前作『服部』から約1年4ヶ月ぶりのリリースであり、作詞・作曲はメンバー全員が担当。バンド自身がプロデュースを手掛けた初のセルフ・プロデュース作品としても知られています。

アルバム制作の背景

前作リリース後、UNICORNは大規模なコンサートツアーを敢行。日本武道館公演を含む全41公演は、シンプルなステージ構成で彼らの演奏力を際立たせました。続くツアーでは、コメディアンの坂上二郎がゲスト出演するなど、エンターテイメント性も追求。これらの経験が、本作の制作に大きな影響を与えました。

録音と制作

本作のレコーディングは、1990年4月から5月にかけて行われました。ボーカルの奥田民生は、アルバムに特別なコンセプトは設けず、各楽曲の個性を尊重することを心掛けたと語っています。また、メンバー全員がボーカルを担当することで、楽曲のニュアンスをより深く表現することを目指しました。

奥田は、アコースティック・ギターを中心としたサウンドを志向していましたが、キーボーディストの阿部義晴の意向により、多彩な楽器を取り入れたサウンドに仕上がっています。レコーディングに先立ち、ウクレレやバンジョーなど様々な楽器を購入したことも、本作の音楽的な多様性を物語っています。

音楽評論家の榊ひろとは、阿部がバンドにもたらしたアレンジャー的な視点を評価し、初期ローリング・ストーンズのブライアン・ジョーンズやレッド・ツェッペリンのジョン・ポール・ジョーンズのような役割を果たしていたと分析しています。

音楽性と歌詞

アルバムには、「働く男」「いかんともしがたい男」「スターな男」といったタイトルに「男」が付く楽曲が3曲収録されており、これらは「男三部作」と呼ばれています。奥田は、タイトルを付ける上での利便性を理由に挙げていますが、それぞれの楽曲がメンバーの個性を反映しているという解釈も存在します。

「スライムプリーズ」のイントロには、特撮テレビドラマ『ウルトラセブン』と『サンダーバード』のオープニングテーマからサンプリングされた音源が使用されています。これは、レコーディング中に聴いたCDからインスピレーションを得たもので、遊び心溢れるサウンドとなっています。

音楽評論家の安田謙一は、収録曲を様々な視点から分析し、「ニッチ・ポップの見本市のような一枚」と評して、本作をUNICORNの最高傑作であると主張しています。

収録曲について

アルバムには、バラエティに富んだ楽曲が収録されています。

命果てるまで: 昭和のラブホテルを彷彿とさせる情景を描いた楽曲。
フーガ: 結婚をテーマにした楽曲で、絶望的な歌詞と軽快なメロディが印象的。
ロック幸せ: 西川幸一が初めてリードボーカルを担当した楽曲。
ケダモノの嵐: アコースティック・ギターを大胆にフィーチャーしたロックナンバー。
エレジー: 渡辺満里奈がゲスト参加した楽曲で、オタク的な世界観を描いています。
自転車泥棒: XTCからの影響を感じさせる楽曲で、Whiteberryによるカバーでも知られています。
富士: 阿部義晴がメインボーカルを務める、ゆったりとしたリズムの楽曲。
リンジューマーチ: ハリー・ベラフォンテの「バナナ・ボート」の一節が使用された楽曲。
スライムプリーズ: 特撮ソングのサンプリングを大胆に用いた楽曲。
CSA: 所属事務所の住所と電話番号を歌詞にしたパンク・ロックナンバー。
いかんともしがたい男: ビートルズからの影響を感じさせる楽曲。
夜明け前: 寝ぼけ声のアカペラで始まる楽曲。
働く男: フジテレビ系バラエティ番組『夢で逢えたら』のオープニングテーマとして使用された楽曲。
スターな男: ロックンロール調の楽曲で、阿部義晴がメインボーカルを担当。

リリースとプロモーション

アルバムは、CDとCTの2形態でリリースされ、テレビ番組での演奏やイベント出演など、様々なプロモーションが行われました。その後、MDや廉価版CD、紙ジャケット仕様CDなど、様々な形態で再リリースされています。

ツアー

アルバムリリース後には、大規模なコンサートツアー「UNICORN 1990 "嵐のケダモノ" TOUR」が開催され、全国50都市で全66公演が行われました。ツアーでは、アルバム収録曲を中心に、様々な楽曲が演奏され、観客を熱狂させました。

評価と受賞

本作は、音楽評論家から高い評価を受け、第32回日本レコード大賞では優秀アルバム賞とアルバム大賞を受賞しました。また、オリコンアルバムチャートでは初の1位を獲得し、売り上げ枚数は40万枚を超えるなど、商業的にも成功を収めました。

『ケダモノの嵐』は、UNICORNの音楽的な多様性と eksperimental な精神が凝縮された、まさに最高傑作と呼ぶにふさわしいアルバムです。

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