ケニー・ランキン

ケニー・ランキン（Kenny Rankin）は、1940年 2月10日にニューヨーク州マンハッタンで生まれ、2009年 6月7日に永眠したアメリカ合衆国の歌手、ソングライターです。彼の音楽性はフォークロックを基盤としつつ、ジャズやポップのエッセンスを巧みに取り入れた独自のスタイルを確立しました。感情を豊かに表現するため、その特徴的な高音域の歌声を巧みに駆使したことで知られています。

幼少期に、家庭や友人たちの前で歌う母親の姿から音楽への興味を抱いたランキンは、キャリアの出発点として、まず自身の作詞作曲を手掛けるシンガーソングライターとして活動を始めました。彼のリリースしたアルバムのうち3作品は、権威あるビルボード誌のアルバムチャートに名を連ねる成功を収め、その音楽活動の大部分において、彼は広く親しまれるポップ・ミュージックの分野で重要な役割を果たしました。

意外な側面としては、音楽史に残るボブ・ディランのアルバム『ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム』にギタリストとして貢献しています。また、人気深夜番組『ザ・トゥナイト・ショー』には、実に20回を超える出演を果たしており、その親しみやすい人柄と歌声で多くの視聴者に知られることとなりました。特に、深夜トーク番組の伝説的司会者ジョニー・カーソンは彼の才能を高く評価し、1967年のデビューアルバム『マインドダスターズ』のライナーノーツを自ら手掛けたことは有名なエピソードです。

このデビューアルバムに収録されていた楽曲「Peaceful」は、彼が手掛けた作品の中でも特に知られる存在となります。1969年にはイギリスの歌手ジョージィ・フェイムによるカバーが全英シングルチャートでヒットし、最高16位を記録、9週間にわたりチャートインしました。これはランキンの作曲した楽曲が同チャートにランクインした唯一の例であるとされています。ランキン自身も1972年のアルバム『ライク・ア・シード』でこの曲を再録音しています。さらに1973年には、ヘレン・レディがこの曲をカバーし、アメリカのアダルト・コンテンポラリー・チャートで2位、ポップ・チャートでもトップ20圏内（12位）に入る大ヒットとなりました。

キャリアの後半には、アラン・ブロードベント、マイク・ウォフォード、ビル・ワトラスといった卓越したジャズミュージシャンたちとの共演を深める中で、彼の音楽性はより一層ジャズの色彩を濃くしていきました。彼の作曲能力はジャズ界でも高く評価され、ペギー・リー、メル・トーメ、カーメン・マクレエといった著名なジャズシンガーたちが彼の楽曲を取り上げ、パフォーマンスしています。特に、サックス奏者の巨匠スタン・ゲッツは彼の歌声を「まるで鼓動する管楽器のようだ」と絶賛し、その表現力の豊かさを称賛しました。

ブラジル音楽への強い関心も彼の音楽に反映されました。リオデジャネイロでは、著名なジャズミュージシャンであるマイケル・ブレッカーやアーニー・ワッツと共にアルバム『ヒア・イン・マイ・ハート』をレコーディングし、その多才さを示しました。大手ジャズレーベルであるヴァーヴ・レコードと契約を結んだ後、ランキンは再び精力的に演奏活動とレコーディングに取り組む。この時期には、レオン・ラッセルの「A Song for You」やビートルズの「I've Just Seen a Face（夢の人）」といった、時代を超えて愛されるポピュラー楽曲をジャズ的な解釈でカバーし、新たな魅力を引き出しました。

ビートルズとの繋がりは深く、1974年のアルバム『シルヴァー・モーニング』に収められた「ブラックバード」のカバーは特に高く評価されました。ポール・マッカートニー自身もこのバージョンを気に入り、後に彼とジョン・レノンがソングライターの殿堂入りを果たした式典では、ランキンにこの曲の演奏を直接依頼したというエピソードは有名です。

ユニークな交友関係としては、伝説的コメディアンのジョージ・カーリンとの深い親交が挙げられます。二人は同時期にリトル・デイヴィッド・レコードと契約し、互いの才能を認め合いました。1972年以降、ランキンはカーリンのライブにおいて、しばしばオープニングアクトを務めたり、ゲストとしてステージに登場したりするようになりました。彼らはカーリン所有のプライベートジェットで移動するなど、極めて親密な関係を築き、およそ10年近くにわたり、断続的に全米各地でのツアーを共にしたとされています。ランキンは過去に薬物依存の問題を抱え、リハビリ施設「フェニックス・ハウス」で克服した経験がありましたが、残念ながらカーリンとのツアー中にコカインの使用を再開してしまった時期もあったと言われています。2008年6月にジョージ・カーリンが逝去した際には、その追悼式でランキンが心を込めた歌声を披露し、長年の友情に捧げました。

私生活では、イヴォンヌ・ロドリゲス＝カルデローネと結婚しています。晩年は健康を損ない、肺癌と診断されてからわずか3週間後の2009年 6月7日、惜しまれつつこの世を去りました。

主なアルバム

- 『マインドダスターズ』(Mind-Dusters, 1967年)
- 『ファミリー』(Family, 1969年)
- 『ライク・ア・シード』(Like a Seed, 1972年)
- 『シルヴァー・モーニング』(Silver Morning, 1974年)
- 『インサイド』(Inside, 1975年)
- 『ケニー・ランキン・アルバム～愛の序奏』(The Kenny Rankin Album, 1977年)
- 『アフター・ザ・ローゼス』(After the Roses, 1980年)
- 『ハイディング・イン・マイセルフ』(Hiding in Myself, 1988年)
- 『ビコーズ・オブ・ユー』(Because of You, 1991年)
- 『プロフェッショナル・ドリーマー』(Professional Dreamer, 1995年)
- 『ヒア・イン・マイ・ハート』(Here in My Heart, 1997年)
- 『ザ・ボトム・ライン・ライヴ』(The Bottom Line Encore Collection, 1999年)
- 『ピースフル・クリスマス』(A Christmas Album, 1999年)
- Haven't We Met? (2001年)
- 『ア・ソング・フォー・ユー』(A Song for You, 2002年)

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