ケヌズ語

ケヌズ語（クヌーズ・ヌビア語）

ケヌズ語（Kenuz）またはクヌーズ・ヌビア語（Kunuz Nubian）は、エジプト南部のコム・オンボ近郊などで話されているヌビア諸語に属する言語です。メトキ語（Mattokki）とも呼ばれることがあります。

分類

言語の分類については、研究者によって異なる見解があります。Lewis et al. (2015) は、ヌビア諸語をナイル・サハラ語族の東スーダン語派に位置づけ、ケヌズ語をドンゴラウィ語とは別の言語としています。一方で、Hammarström et al. (2016) は、ヌビア諸語を独立した語族とみなし、ケヌズ語とドンゴラウィ語を同一言語の方言と分類しています。

音韻論

子音

ケヌズ語の子音は、以下の特徴があります。

p は、後続が無声閉鎖音または無声摩擦音の場合に b の異音として現れます。
j の異音として [cc] が、n の異音として ŋ が、s の異音として z が現れることがあります。

母音

母音は五種類存在し、それぞれ長短の区別があります。

長母音と短母音の区別が意味を区別する上で重要です。

強勢

強勢は、基本的に最後から二番目の音節に置かれますが、長母音のある音節や、語末に強勢がある二音節語も存在します。

文法

数

単数と複数の区別があり、複数形は接尾辞で表されます。

子音で終わる語根には -i が、母音で終わる語根には -cci が付加されます。

例: `id` (男) : `idi` (男たち)、`wel` (犬) : `weli` (犬たち)

格

名詞、名詞句、代名詞には、主格、対格、属格の三種類の格変化が存在します。

主格: 形態素が付加しない形で表されます。
対格: 接尾辞 -ki または -gi で表されます。
語根が /l/, /m/, /n/, /w/, /y/ で終わる場合は -gi、母音で終わる場合は長母音化の後に -g が接続されます。それ以外の場合は -ki が用いられますが、子音の種類によっては -ti や -ci に変化します。

例: `id` (男は) : `itti` (男を), `idi` (男たちは) : `idi:g` (男たちを), `wel` (犬が) : `welgi` (犬を)
属格: 接尾辞 -na または -n で表されます。
語順は「所有者 - 非修飾名詞」となります。
-n は前後のいずれかが母音の場合に用いられ、後続の子音が /m/, /f/, /s/, /š/, /h/ の場合はその子音に同化します。

例: `id` (男は) : `idna ka` (男の家)

代名詞

独立代名詞の主格形は、それぞれ固有の形を持ち、名詞同様に格変化します。

指示代名詞は名詞の前に置かれます。

例: `in id` (この男)、 `man id` (あの男)

形容詞

形容詞は名詞の後ろに続きます。

例: `id adel` (良い男)

動詞

動詞は語根に接辞を付加することで形成され、接頭辞、複合語、接尾辞の三種類のパターンがあります。

接頭辞は、進行 (a-) や未来時制 (bi-) を表します。
受益者格を表す接辞には、話し手が利益の受け手となる場合に -de:n-、話し手以外が利益の受け手となる場合に -tir- の二種類があります。
例:
`alle-de:n-s-u` (私のために直してくれた。)
`alle-tir-s-i` (他人のために直してあげた。)

-de:n- の n は後続する子音が /s/, /m/ である場合、-tir- の t は直前の子音が /s/, /š/, /c/ である場合にそれぞれ同化します。

語順

文の語順はSOV型です。

例: `id ay-gi ba:b-ki alle-de:n-s-u.` (男は私のために扉を修理してくれた。)

参考文献

Abdel-Hafiz, Ahmed Sokarno (1988). A Reference Grammar of Kunuz Nubian. State University of New York at Buffalo.
Dryer, Matthew S. (2013) "Feature 81A: Order of Subject, Object and Verb". In: Dryer, Matthew S.; Haspelmath, Martin, eds. The World Atlas of Language Structures Online. Leipzig: Max Planck Institute for Evolutionary Anthropology.
Hammarström, Harald; Forkel, Robert; Haspelmath, Martin et al., eds (2016). “Kenuzi-Dongola”. Glottolog 2.7. Jena: Max Planck Institute for the Science of Human History.
Lewis, M. Paul; Simons, Gary F.; Fennig, Charles D., eds. (2015). Ethnologue: Languages of the World (18th ed.). Dallas, Texas: SIL International.
大塚和夫「ケヌズ」 綾部恒雄 監修『世界民族事典』弘文堂、2000年。

外部リンク

Ethnologue report for Mattokki (英語) - エスノローグ

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