ケプラー16

ケプラー16は、夜空にはくちょう座として輝く領域に位置し、地球からはおよそ200光年の距離にある天体です。単一の星ではなく、2つの恒星が互いの周りを回り合っている連星系を形成しています。

この連星系は、ケプラー16Aと呼ばれるK型主系列星と、ケプラー16Bと呼ばれる赤色矮星（M型主系列星）から構成されています。主星であるケプラー16Aは、私たちの太陽の約65%の質量を持ち、伴星のケプラー16Bは太陽の約20%の質量です。AとBの質量比は約3.4対1であり、この2つの恒星は、連星系の共通の重心の周りを約41.1日の周期で公転しています。

ケプラー16は、地球から観測すると、2つの恒星が互いの手前を周期的に通過し、光を遮り合う現象（食）を起こします。これにより、系全体の明るさが規則的に変動する、いわゆるアルゴル型食変光星に分類されます。

しかし、ケプラー16の明るさの変化を精密に測定した結果、単純な連星による食だけでは説明できない、さらに複雑な変動パターンが検出されました。この不規則な変動は、第三の天体が連星の手前を通過することによって引き起こされている可能性が示唆され、これが未知の惑星の存在へと繋がりました。

こうした観測に基づき、この連星系には太陽系外惑星が存在することが確認されました。発見された惑星はケプラー16b（またはケプラー16(AB)b）と名付けられ、その発見は惑星探査を目的としたケプラー宇宙望遠鏡の観測データから、2011年9月15日に公式に発表されました。この惑星は、その大きさがおよそ土星に匹敵するとされています。

ケプラー16bが天文学界に大きなインパクトを与えたのは、それが2つの恒星の共通重心の周りを公転する「周連星惑星（Circumbinary Planet）」として、史上初めて明確に確認された天体であったからです。単一の恒星の周りを回る惑星は多数発見されていましたが、2つの太陽を持つような連星系の周りを回る惑星の存在は、理論的には予測されつつも、観測による証拠は得られていませんでした。また、このケプラー16bが連星の手前を通過する「トランジット」現象が観測されたのも、周連星惑星としてはこれが初めての事例となりました。

ケプラー16bは、連星系の共通重心から約0.71天文単位（AU）離れた軌道を回っています。1天文単位は地球と太陽の平均距離ですが、0.71AUは太陽系で言えば水星軌道と金星軌道の間くらいに相当します。ケプラー16bがこの軌道を一周するのに要する時間は、およそ229日です。この軌道の興味深い特徴として、連星が互いを回る軌道長半径と、惑星が連星の周りを回る軌道長半径の比率が約3.41であることが挙げられます。これは、これまでに見つかっている他の周連星惑星と比較して、恒星のペアに近い軌道を持っていることを意味し、この比率が最も小さい部類に入ります。

ケプラー16系におけるケプラー16bの発見は、惑星が単一の恒星だけでなく、複数の恒星からなる連星系の周りでも安定した軌道を持つことが可能であることを実証し、惑星形成論や軌道力学に関する理解を深める上で極めて重要な事例となりました。その姿から、NASAは映画『スター・ウォーズ』に登場する二重太陽を持つ惑星「タトゥイーン」になぞらえて紹介したことでも知られています。この発見は、宇宙における惑星系の多様性を示す好例であり、今後の系外惑星探査に新たな視点をもたらしました。

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