ケプラー16b

ケプラー16b

ケプラー16bは、恒星が二つ寄り集まった連星系「ケプラー16」の重心を中心に軌道を描く太陽系外惑星です。これまでにも中性子星と白色矮星からなる連星を周回する惑星は見つかっていましたが、恒星同士の連星を巡る惑星として明確に確認された最初の例であり、その発見は天文学における重要なマイルストーンとなりました。

軌道の特異性

ケプラー16系は、太陽よりやや小さいK型主系列星ケプラー16Aと、さらに小さなM型主系列星ケプラー16Bのペアから構成されています。ケプラー16bはこの二つの星の周りを、中心から約1億500万キロメートル（およそ0.71天文単位）離れた軌道を約229日かけて一周しています。この惑星が連星の手前を横切る、いわゆる「周連星惑星のトランジット」が初めて観測されたことも、その発見の大きな要因となりました。

興味深いことに、ケプラー16系自体が食変光星、つまり恒星同士がお互いの手前を通過し合うことで明るさが周期的に変化する天体として知られていました。ケプラー16bは、この恒星間の食とは別に発生する、さらなる明るさの変化を詳しく調べる中で、第三の天体（惑星）が存在することを示唆する光度変化として検出されたのです。

ケプラー16bの軌道は、連星系における惑星形成や安定した軌道の存在限界に関する従来の考え方を覆すものでした。一般的に、接近した連星の周りで惑星が安定した軌道を持つためには、連星間の距離の少なくとも7倍は離れている必要があると考えられていましたが、ケプラー16bの軌道は連星間の距離のわずか約3.41倍しか離れていません。これは、発見されている周連星惑星の中でも特に内側に位置する例であり、連星系における惑星系の進化や安定性に関する理論に新たな視点をもたらしました。

ただし、ケプラー16bによるトランジットは常に観測できるわけではありません。惑星の軌道面と地球から見た連星系の向きとの関係で、2014年頃まではケプラー16AとBの両方を通過していましたが、それ以降は片方だけを通過するようになり、さらに2018年から2042年頃までの期間は、どちらの恒星の手前も通過しなくなり、トランジット法での検出は困難になります。

物理的特徴

ケプラー16bは、質量が木星の約3分の1、半径が木星の約75%と推定されています。おおよそ土星に近いサイズですが、主にガスで構成される土星や木星とは異なり、内部はガスと岩石が半分ずつで構成されていると考えられています。

ケプラー16系の詳細な光度変化と連星軌道を精密に測定することによって、恒星と惑星の物理的性質、特に半径や質量は極めて高い精度で決定されています。例えば、惑星の半径は0.3%以下の精度で求められており、発見当時には他のどの太陽系外惑星よりも精密な測定例として挙げられました。

生命の可能性とハビタブルゾーン

ケプラー16bの表面は非常に冷たく、推定温度はマイナス100℃からマイナス70℃程度です。ケプラー16系のハビタブルゾーン、つまり液体の水が存在しうる領域は、比較的明るいケプラー16Aからの光に基づいて計算され、中心から約5500万キロメートルから1億600万キロメートルの範囲と推定されています。ケプラー16bの軌道（約1億500万キロメートル）は、このハビタブルゾーンの外縁にほぼ重なります。

しかし、ケプラー16b自体は巨大なガス惑星であるため、生命が存在する可能性は低いと考えられています。もし地球サイズの衛星が存在すれば、十分な大気を持つことで生命発生の条件を満たす可能性があるという指摘もあります。コンピューターシミュレーションでは、ケプラー16系の誕生後、ハビタブルゾーン内に形成された地球型惑星が、他の天体の重力擾乱によって軌道から弾き出され、ケプラー16bに捕獲されて衛星となる可能性が示唆されています。

宇宙には単独の星よりも連星系が多く存在するため、連星系における生命の可能性を議論できることは非常に重要です。かつては連星系では惑星が安定して存在しにくいと考えられていましたが、ケプラー16bの発見は、そのような環境でも惑星が存在しうることを示し、連星系における生命探査の可能性に新たな道を開きました。

フィクションとの関連

ケプラー16bの表面からケプラー16系を眺めると、空には二つの「太陽」が輝いていることになります。この光景は、映画『スター・ウォーズ』シリーズに登場する、二つの太陽を持つ架空の惑星「タトゥイーン」を彷彿とさせます。実際に、ケプラー16bの発見時には、報道発表などで「タトゥイーン」になぞらえて紹介され、発見を行ったSETI協会も非公式にこの名称を用いることがありました。

しかし、タトゥイーンが荒涼とした砂漠の岩石惑星であるのに対し、ケプラー16bは低温のガス惑星であり、物理的な性質は大きく異なります。映画のように表面で農業が営まれるような環境ではありませんが、前述のような地球サイズの衛星が存在すれば、その衛星上での居住可能性はあり得ます。また、連星の軌道運動によって、二つの太陽の見かけの位置関係は時間と共に変化するため、映画とは異なる天体ショーが見られると考えられます。

発見と命名

ケプラー16bは、NASAのケプラー宇宙望遠鏡が観測した15万個以上の恒星のトランジットデータの中から発見されました。ケプラー宇宙望遠鏡は、ハビタブルゾーンや地球サイズの惑星を見つけることを主な目的としたミッションでした。

[惑星]]の名前「ケプラー16b」は、ケプラー宇宙望遠鏡が発見した惑星系のうち、16番目に登録された系内の惑星（系内の最初の惑星に'b'を付ける慣例）に由来します。ただし、ケプラー16系を構成する恒星の一つに「ケプラー16B」という名前があるため、これと混同しないよう「ケプラー16]b」と表記されることもあります。これは、他の多くの[[太陽系外惑星は単独星を公転しているため、単に「ケプラー〇〇b」と書いただけでは、連星を周回する周連星惑星であることが直感的に分かりにくいという事情も影響しています。

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