ゲルリッツ市電

ドイツ東部の都市、ゲルリッツ市内を走る路面電車は、ゲルリッツ交通有限会社（Görlitzer Verkehrsbetriebe GmbH）によって運営されています。この公共交通機関は、地域住民や訪問者の移動を支える重要な役割を担っています。

歴史

ゲルリッツにおける軌道交通の歴史は19世紀末に始まります。市内に鉄道を敷設する構想が持ち上がり、まずは標準軌（1,435 mm）の馬車鉄道が導入されることが決定しました。1882年、ゲルリッツ馬車鉄道（Görlitzer Pferdebahn）の手により最初の路線が開通し、その後路線網は順調に拡張されました。

1892年には、運営権がベルリンのAEGに移り、近代化への動きが加速します。そして1897年 12月、全3系統が電化され、同時に軌間がメーターゲージ（1,000 mm）に変更されました。そのわずか2年後の1899年には、運営主体がアルゲマイネ郊外・路面電車会社（ALOKA）へと譲渡されています。

第一次世界大戦中の1915年には、市内の環状路線が廃止されるという出来事もありましたが、戦後には再び延伸が進められ、1939年には5つの系統を持つ比較的充実した路線網が完成しました。続く第二次世界大戦中、ゲルリッツ市内は他都市に比べて直接的な戦火による破壊は少なかったものの、路面電車はメンテナンス不足や増大した乗客による負荷で車両や機器の劣化が進みました。また、空襲の可能性に備え、車内照明の青色化や前照灯のスリット化といった対策も講じられました。

終戦後、ゲルリッツ市はナイセ川を境界に東西に分断され、川の東側はポーランド領となりました。これにより、東岸を通る路面電車路線は廃止されます。西側の路線網も1945年 5月から一時的に運行を停止しましたが、翌6月には順次運行を再開しました。

東ドイツ領となったゲルリッツ市電の運営権は、民間のALOKAから人民公社へと移管されました。この時代には、東ドイツ製の2軸車両が導入され、老朽化した戦前型車両の置き換えが進められました。また、これらの片運転台車両に対応するため、終点の停留所にループ線を設置する工事が進められたほか、1960年代後半からは車掌業務を廃止し、乗客自身が乗車券に刻印する信用乗車方式へと移行しました。

1970年代に入ると、ゲルリッツ郊外で新たな住宅地の開発が進みますが、当初はこれらの地域への交通手段として路線バスの整備が優先され、路面電車の一部区間がバス路線に代替されて廃止される事態も発生しました。しかし、オイルショックの影響を受けて公共交通政策が見直され、1986年には経由地の変更を伴う延伸が実施されました。車両面でも近代化が進み、1980年代以降、チェコスロバキア製の小型2車体連接車であるKT4Dの導入が開始され、従来の2軸車はドイツ再統一後の1992年までに定期運用から姿を消しました。

ドイツ再統一後、ゲルリッツ市電は車両の更新や車庫の再建といった近代化が進められました。一方で、路線網は最盛期の5系統から縮小の一途をたどり、2004年には線路状態の悪化を理由に当時の1号線が廃止され、バスに転換されました。これにより、現在まで2系統体制での運行が続いています。運営組織についても、再統一後に何度かの再編を経て、2019年以降はゲルリッツ交通が運営を担っています。

運用

2022年現在、ゲルリッツ市電は市内に2つの系統（系統2、系統3）を運行しています。運賃体系は多様で、例えば大人運賃の場合、45分以内の乗車は1.6ユーロですが、非接触式ICカードであるハンディチケット（HandyTicket）を利用すると1.48ユーロに割引されます。夜間（18時から翌朝4時まで）の運賃は2ユーロとなります。また、1日乗車券（3.5ユーロ、ハンディチケット利用時は3.22ユーロ）や各種定期券なども販売されており、利用者のニーズに応じた選択肢が提供されています。

車両

2021年時点でゲルリッツ市電の主力として活躍しているのは、全て東ドイツ時代の1979年から導入が始まった小型2車体連接車のタトラKT4Dです。この形式は1990年までに11両が新造されたほか、ドイツ再統一後にエアフルト市電から5両（1992年）、コトブス市電から3両（1998年）が譲渡されています。2022年現在、合計14両のKT4Dが在籍しており、これらの車両は1992年から2000年にかけて、車体の修繕、座席、窓枠、扉、電気機器などの広範囲にわたる更新工事が実施され、延命が図られています。

また、ゲルリッツ市電には営業用車両以外にも、特別な目的で使用される車両が存在します。例えば、観光用車両として「ホップフェンエクスプレス（Hopfenexpress）」が活躍しています。これは、1990年代にマンハイム市電から譲渡された車両（マンハイム形）の1両を2000年に改造したもので、団体輸送などに利用されています。さらに、馬車鉄道時代の客車を含む複数の旧型車両が動態保存されており、歴史的な車両が大切に維持管理されています。

今後の予定

ゲルリッツ市電の将来を見据え、運営会社のゲルリッツ交通は近代化を推進しています。2019年には、ライプツィヒ市電およびツヴィッカウ市電を運営する事業者と共同で、新型電車の導入に向けた入札の実施を発表しました。その結果、2021年にハイターブリックとキーペ・エレクトリックから成るコンソーシアム「LEIWAG」への発注が決定しました。ゲルリッツ市電に導入される新型車両は、全長約30メートル、車幅2.4メートル、定員170名の超低床電車となる予定です。基本契約で8両が発注されており、さらにオプションとして6両の追加導入も可能な契約が結ばれています。これらの新型車両は、現在主力として使用されているタトラKT4D形を置き換えることを目的としています。

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