ゲーベン (巡洋戦艦)

ドイツ帝国海軍の巡洋戦艦「ゲーベン」

「ゲーベン」は、ドイツ帝国海軍が建造したモルトケ級巡洋戦艦の2番艦です。姉妹艦には「モルトケ」があります。1912年7月に竣工後、地中海戦隊に配属され、地中海での活動を開始しました。

第一次世界大戦勃発とオスマン帝国への移籍

第一次世界大戦が勃発すると、ゲーベンはイギリス海軍の追跡を逃れ、ダーダネルス海峡を通過してオスマン帝国の領海に逃げ込みました。その後、オスマン帝国に売却され、「ヤウズ・スルタン・セリム」と改名されました。「ヤウズ」は、オスマン帝国のスルタン、セリム1世のあだ名で、「冷酷な者」という意味を持ちます。

オスマン帝国海軍での活躍

「ヤウズ」は、軽巡洋艦「ミディッリ」（旧ドイツ海軍の「ブレスラウ」）と共にオスマン帝国海軍の主力艦として活動しました。イギリス海軍やロシア帝国海軍と交戦し、幾度も損傷を受けながらも、第一次世界大戦を生き抜きました。

トルコ共和国海軍へ

第一次世界大戦後、オスマン帝国が崩壊しトルコ共和国が成立すると、「ヤウズ・スルタン・セリム」はトルコ海軍所属となり、艦名も「ヤウズ・セリム」に変更されました。さらに1936年には「ヤウズ」と改名され、二度にわたる近代化改装を経て、第二次世界大戦後まで運用されました。

ドイツ海軍時代

「ゲーベン」は、ブローム・ウント・フォス社によってハンブルク造船所で建造されました。艦名は、普仏戦争で活躍したアウグスト・カール・フォン・ゲーベンにちなんで命名されました。海外進出を進めるドイツ帝国は、バルカン戦争中に新編された地中海戦隊の旗艦として本艦を配備しました。1912年11月上旬にドイツを出航し、地中海へ到着。「ブレスラウ」と合流し、ギリシャ、ブルガリア、イタリア、エジプトを歴訪しました。

1914年、ゲーベンは機関部に故障を抱えており、姉妹艦「モルトケ」と旗艦の役目を交代してドイツへ帰国する予定でした。しかし、オーストリア＝ハンガリー帝国のポーラ軍港で修理を行い、24ノット程度の速度を出せるようになりました。1914年7月28日にオーストリア＝ハンガリー帝国とセルビアが戦争状態に入ると、ゲーベンはドイツの参戦に備えてアルジェリア沖へ向かいました。8月2日、地中海戦隊はメッシーナで石炭を積み込み、8月3日のフランスへの宣戦布告後、ドイツ帝国とオスマン帝国の同盟によりイスタンブールへの回航を命じられました。

第一次世界大戦中の活動

ゲーベンは「ブレスラウ」と共にアルジェリア沿岸を砲撃し、フランス陸軍の輸送を妨害しようと試みましたが、陸軍の移動前だったため被害は限定的でした。この行為は逆に、イギリス海軍に自らの存在を知らせる結果となりました。ドイツ艦隊は、イギリス地中海艦隊の強力な戦力に対し不利な状況にありました。劣勢なドイツ艦隊はメッシーナを脱出後、イギリス艦隊の追跡を受けながら地中海を彷徨いました。8月10日、ダーダネルス海峡に到達し、オスマン帝国の首都コンスタンティノープルに停泊しました。その後、オスマン帝国に購入され、「ヤウズ・スルタン・セリム」と改名されました。乗組員はそのままオスマン海軍に移籍し、ドイツ人将兵によって運用されました。

オスマン帝国による購入の背景

オスマン帝国海軍は、旧式の艦艇が多く、整備も不十分な状態でした。国家財政も悪化し、新鋭艦の購入も困難でした。1912年のバルカン戦争では、海軍力の弱さを露呈し、イタリア海軍に大敗しました。こうした状況下、国民の間で海軍整備の機運が高まり、大型軍艦購入の資金が集められました。ギリシャがイタリアから巡洋艦を購入した際、トルコは日本海軍に巡洋戦艦の購入を打診しましたが、断られました。その後、ドイツから戦艦を購入し、「バルバロス・ハイレッディン」と「トゥルグト・レイス」と命名しました。さらに、イギリスのヴィッカーズ社に発注した超弩級戦艦「レシャディエ」や、ブラジルから購入した弩級戦艦「スルタン・オスマン1世」も建造中でした。しかし、これらの戦艦は完成直前にイギリス政府によって接収されてしまいました。この事件が反英感情を高め、ドイツから巡洋戦艦「ゲーベン」と軽巡洋艦「ブレスラウ」が来たことは、オスマン帝国にとって非常に大きな出来事でした。イギリス政府は、ドイツ艦隊の退去を求めましたが、オスマン帝国の親独的な政権は国民の反英感情を背景に、両艦の自国海軍への編入を主張し、ドイツに接近しました。

「ヤウズ・スルタン・セリム」としての活動

「ヤウズ・スルタン・セリム」は、オスマン帝国海軍の主力として黒海を中心に活動しました。1914年10月29日にはロシア帝国領を襲撃し、セヴァストーポリを砲撃しました。その帰路、ロシア艦艇を撃沈し、輸送船を拿捕しました。この攻撃をきっかけに、オスマン帝国は第一次世界大戦に参戦しました。11月18日のサールィチ岬の海戦では、被弾し小破。12月には輸送船の護衛やバトゥミ砲撃を行いました。12月26日にはボスポラス海峡入り口付近で触雷し、修理を必要としました。1915年4月に復帰後、ロシア艦隊と交戦しましたが、ロシア黒海艦隊に新型戦艦が配備されると、徐々に劣勢になりました。1916年には、ロシア戦艦との交戦もありましたが、双方とも決定的な損害は与えられませんでした。1918年1月には、地中海へ出撃し、イギリスのモニター艦を撃沈するなどしましたが、触雷により損傷、帰路で座礁し、爆撃を受けるなど、苦難を強いられました。

大戦終結後

1918年10月30日、オスマン帝国はイギリスと休戦協定を結び、第一次世界大戦は終結しました。オスマン帝国が崩壊し、トルコ共和国が成立すると、「ヤウズ・スルタン・セリム」はトルコ海軍の所属となりました。1926年から1930年にかけて、近代化改装が行われました。1936年には「ヤウズ」と改名されました。1938年には、ケマル・アタテュルクの遺体を輸送する役割を担いました。第二次世界大戦では中立を表明しましたが、1945年に連合国として枢軸国に宣戦布告しました。1954年に退役し、1973年に解体されました。現在、コジャエリ県ゴルジュクに「ヤウズ」のスクリュープロペラが展示されています。

もう一度検索