コエルルス科

コエルルス科：小型肉食恐竜の分類学的謎

後期ジュラ紀に生息した小型の肉食恐竜、コエルルス科（学名: Coeluridae）。その分類は古くから議論の的となっています。長らく、ジュラ紀や白亜紀の小型獣脚類は、より明確な分類がなされる前に、便宜的にコエルルス科に分類されてきました。そのため、系統的に近縁でない種がまとめて分類され、混乱を招いた歴史があります。

分類の変遷：分類上の「ゴミ箱」から最新の系統解析へ

系統解析が確立される以前、コエルルス科は、いわば分類上の「ゴミ箱」的な存在でした。小型獣脚類で、他の科に属さない種が全てここに分類されていたのです。1980年代後半には、ノアサウルス科やオヴィラプトロサウルス類など、形態的に異なる種が十数種もコエルルス科に含まれていました。

しかし、2000年代に入ると状況が変わります。2003年、ウォルター・ミーシャ・ラウハットらの分岐論的分析により、コエルルス（北アメリカ）、コンプソグナトゥス（ヨーロッパ）、シノサウロプテリクス（アジア）、そして後にミリスキアと命名された南アメリカの種などがコエルルス科に含まれる可能性が示唆されました。ラウハットらは、コエルルス科が基底的なコエルロサウルス類の単系統群であると推測しました。しかし、この結果はその後、他の研究者によって確認されていません。

2007年には、フィル・センターがコエルルスとタニコラグレウスのみをコエルルス科に分類し、さらにティラノサウルス上科に属すると提案しました。2015年には、ヘンドリックス、ハートマン、マテウスらがコエルルス科に正式な系統学的定義を与えましたが、コエルルス科に属する種については依然として議論が続いています。タニコラグレウスがコエルルス科に含まれるという説もありますが、その関係性を裏付ける決定的な証拠はまだ不足しています。

系統的位置：コエルロサウルス類との関係

コエルルス科の系統的位置は、コエルロサウルス類との関連性においても複雑です。多くの研究では、コエルルスはコエルロサウルス類に含まれるとされていますが、コエルルス科がコエルロサウルス類の他のグループとどのような関係にあるのかは、明確に解明されていません。コエルルス科の定義自体が、研究者によって異なっていることも、この問題を複雑にしています。

コエルルス科の属する恐竜

コエルルス科に含まれるとされる主な恐竜には、以下のものがあります。

コエルルス (Coelurus): 後期ジュラ紀、北アメリカ
コンプソグナトゥス (Compsognathus): 後期ジュラ紀、ヨーロッパ
シノサウロプテリクス (Sinosauropteryx): 前期白亜紀、アジア
ミリスキア (Mirischia): 前期白亜紀、南アメリカ
* タニコラグレウス (Tanycolagreus): その分類については議論が続いています。

これらの恐竜は、小型で二足歩行、肉食性という共通点を持つものの、骨格の特徴などには違いが見られます。

今後の研究課題

コエルルス科の分類は、今後の研究によってさらに変わっていく可能性があります。より多くの化石の発見や、高度な系統解析技術の進歩によって、コエルルス科の系統関係や、コエルロサウルス類におけるその位置づけがより明確になることが期待されます。特に、タニコラグレウスや、他の小型獣脚類との関係性の解明は重要な課題です。また、形態学的特徴に基づいた詳細な比較研究も必要不可欠です。

まとめ

コエルルス科は、古生物学において分類が複雑で、議論の多い分類群です。その歴史的な経緯や、近年の系統解析の進展、そして残された謎を理解することで、恐竜進化の複雑さ、そして研究の進歩を垣間見ることができます。今後、さらなる研究が進むことで、コエルルス科の謎が解き明かされていくでしょう。

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