コスモス1号

コスモス1号（Cosmos 1）は、コスモススタジオと惑星協会が主導した国際的な宇宙開発プロジェクトです。このプロジェクトの主な目的は、太陽の光の圧力（放射圧）を利用して宇宙機を推進させる「ソーラーセイル」技術の実証でした。

プロジェクトの経緯と打上げ

ソーラーセイルの可能性を探るため、無人の実証機が開発されました。打上げは2005年6月21日19時46分09秒（協定世界時）に、ロシアのバレンツ海で行われました。特徴的なのは、潜水艦「ボリソグレブスク」から発射されたことです。打上げに使用されたロケットは、潜水艦発射弾道ミサイルR-29Rを改造したヴォルナロケットでした。

しかし、残念ながらロケットは予定通りに機能せず、実証機は目標としていた軌道に到達することができませんでした。これにより、コスモス1号のミッションは失敗に終わりました。

計画されたミッションと宇宙機

もし打上げが成功し、実証機が軌道に到達していれば、コスモス1号はソーラーセイルを主たる推進手段として宇宙を航行した最初の宇宙機となるはずでした。

搭載されていた実証機は質量約100kgで、打上げ後に中央のハブから8枚の三角形の帆を展開する設計でした。それぞれの帆は長さ15メートル、合計の表面積は約600平方メートルに達します。帆の素材には、アルミニウムを蒸着させたポリエチレンテレフタラート（マイラー樹脂）が使用されていました。

計画では、まず高度800kmの円軌道に投入され、そこで帆が展開されることになっていました。帆に当たる太陽光の圧力によって、宇宙機の高度は徐々に上昇すると期待されており、例えば30日後には50kmから100km程度高度が増す見込みでした。しかし、マイラー樹脂製の帆は日光に晒されることで劣化するため、ミッションは約1ヶ月程度で終了すると想定されていました。

太陽帆による推進原理

ソーラーセイルは、ロケットエンジンのような推進剤を必要としません。代わりに、太陽から放出される光子（光の粒子）が帆の表面に衝突し、反射される際の運動量伝達を利用して推進力を得ます。宇宙空間には空気抵抗がほとんどないため、このわずかな力でも継続的に加速することが可能です。

地球近傍での太陽光による加速は、およそ5×10⁻⁴ m/s²と計算されていました。これは非常に小さな値ですが、時間が経つにつれて速度は着実に増加します。例えば、1日で約45m/s、100日後には約4.5km/s、そして約2.74年後には約45km/sにも達する可能性があります。理論上は、この速度を維持できれば5年程度で冥王星に到達することも考えられます。ただし、太陽から遠ざかるにつれて光子の数は減少し、加速力も弱まります。

興味深いことに、地球付近においては、コスモス1号で期待された太陽帆による加速力は、当時のイオンエンジン搭載機（例: スマート1の最大加速2×10⁻⁴ m/s²）よりも大きくなる可能性がありました。

その他の実験と追跡

主要な太陽帆推進実験に加えて、コスモス1号では将来的なビーム推進の可能性を探るための付加的な実験も計画されていました。具体的には、アメリカ航空宇宙局（NASA）のディープスペースネットワークにあるゴールドストーン天文台の巨大アンテナ（直径70m）から、450kWのマイクロ波ビームを帆に照射し、その効果を測定する予定でした。

軌道に投入されれば、宇宙機は軌道傾斜角が約80度となる予定だったため、南北緯度80度までの広範囲で観測が可能であり、条件が良ければ地上から裸眼でも見えるとされていました。

ミッション中の宇宙機との通信を維持するため、モスクワ南方のタルサ駅やカリフォルニア大学バークレー校の宇宙科学研究所など、世界中の様々な機関が連携した追跡ネットワークが構築されていました。ミッションコントロールセンターは、モスクワのラーボチキン宇宙船設計局に設置されていました。

プロジェクトの背景と後続計画

コスモス1号プロジェクトの予算は約400万ドルでした。惑星協会は、この計画に続いて、さらに400万ドルの予算を投じて「コスモス2号」を計画していました。コスモス2号では、国際宇宙ステーション（ISS）への補給ミッションに使用されるソユーズロケットでの打上げが検討されていました。

初期からディスカバリーチャンネルも投資していましたが、技術の進歩や打上げ費用の増大といった要因から、コスモス1号のコンセプトを引き継ぐ形で、より改良された「ライトセイル1号」プロジェクトに置き換えられることが2009年11月に発表されました。

コスモス1号の開発過程では、メインの宇宙機以外にも試験機が製造されました。例えば、2001年には2枚帆の宇宙機を使った弾道飛行試験が行われましたが、ロケットからの分離に失敗しています。後継機にあたるライトセイル1号は、2機目の軌道実証機として開発され、2015年に打上げに成功しています。

また、プロジェクトの広報活動の一環として、2003年にはマンハッタンのロックフェラー・センターにある惑星協会のオフィスで、コスモス1号の帆の一部が一般公開されました。

打上げは成功しませんでしたが、コスモス1号プロジェクトはソーラーセイルによる宇宙探査という野心的な目標に向けた重要な一歩であり、その後のライトセイル計画などに技術的、概念的な基礎を提供しました。

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