コメディーお江戸でござる

『コメディーお江戸でござる』は、1995年3月30日から2004年3月18日にかけて、NHK総合テレビジョンおよびNHKデジタル衛星ハイビジョンで放送されたユニークなバラエティ番組です。全387回にわたり、江戸時代の賑やかな町を舞台に、そこで暮らす町人たちの日常をコミカルに描き出しました。

この番組が生まれた背景には、江戸時代と現代の間に見出された意外な共通点や面白さへの着目がありました。江戸の魅力をより深く伝える形式として、「公開コメディー」スタイルが採用されましたが、当時のNHKにはこの形式の制作ノウハウが乏しかったため、ベテラン俳優の伊東四朗氏に協力を依頼し、快諾を得ました。さらに、『お笑いオンステージ』を手がけた滝大作氏の参画もあり、番組は本格的に始動します。本放送に先立ち、1994年には二度のパイロット版が放送され、好評を博しました。

番組は基本的に三部構成で成り立っていました。一つ目は、番組の核となる演劇コーナーです。江戸の商家や長屋を主な舞台に、町人や商人を主人公とした喜劇が繰り広げられました。武士が登場することは稀で、出てもあくまで脇役という徹底ぶりでした。座長的存在だった伊東四朗氏は、役名に「徳」の字が入ることが多く、ご隠居や商家の主人といった役柄を演じました。えなりかずき氏は利発な少年や丁稚役、桜金造氏は与太郎風の役どころを多く務めるなど、出演者にはある程度お決まりの役柄がありました。場面転換時には舞台を暗転し、セットや書き割りを移動させる様子をあえて見せるユニークな演出が採用されていました。

二つ目は歌謡コーナーです。演劇にも出演する女性演歌歌手が、自身の持ち歌や番組オリジナルソングを披露しました。舞台下手側の花道から登場し、舞台奥の幕にはその季節に合わせた花や草木が描かれるなど、趣向が凝らされていました。

三つ目は杉浦日向子のおもしろ江戸ばなしです。江戸風俗研究家の杉浦日向子氏が、演劇で取り上げられた事柄（場所、職業、物品、流行など）に関連した江戸の文化や風俗を解説するコーナーでした。座長格の出演者が進行役を務め、演劇の考証について杉浦氏に評価を求めるのが恒例でした。杉浦氏は時に間違いを指摘し、時に小道具や言葉遣いなど良い点を褒めましたが、これは単なる「江戸マニアの粗探し」ではなく、時代劇などで誤って伝わりがちな江戸の姿に対し、視聴者がより正確な知識を持って番組を楽しめるようにという、教養を高めるための意図がありました。後には、冒頭で考証の評価点数のみを先に知らせる演出も取り入れられました。

番組の収録は、渋谷のNHK放送センターにあるCT-101スタジオで行われました。芝居小屋を再現したセットは臨場感を高めました。収録は基本的に一発撮りの公開録画形式でしたが、消防法の関係で一般観覧者の募集は通常行われず、ファンクラブ限定などで観客を募る形でした。しかし、観覧希望の声が多かったため、年に数回はNHKホールなどで一般公開での収録も実施され、地方公演も行われました。

放送当初は視聴率が伸び悩みましたが、1996年頃からは二桁台を安定して維持し、最高で17%を記録するなど人気番組へと成長しました。1996年末には紅白歌合戦にもレギュラー陣が出演しています。番組の中心的存在であった伊東四朗氏は、「次の世代に」という考えから1998年に降板を申し入れ、交渉の末1999年3月に番組を離れました。伊東氏降板後、番組は一時試行錯誤しましたが、第1回から出演していた桜金造氏を中心に、重田千穂子氏、魁三太郎氏といった初期からのメンバーや、途中参加のえなりかずき氏（後に降板）、前田吟氏らのチームワークが光る「誰もが中心」となる群像劇としての魅力を確立し、番組終了まで継続しました。

この番組は、当時試験放送されていたアナログハイビジョン（MUSE方式）でも放送されたため、レギュラー放送は全てSD/HD両対応で撮影・収録されています。2024年現在、DVD化やネット配信は行われていませんが、NHK番組公開ライブラリーや放送ライブラリーといった施設で映像の一部を視聴することが可能です。

約9年間にわたり、江戸の日常を温かくユーモラスに描き続けた『コメディーお江戸でござる』は、多くの視聴者に愛され、橋田賞や伊藤熹朔賞を受賞するなど、その質の高さも評価された番組でした。番組終了後は、『コメディー道中でござる』としてリニューアルされ、同じ枠で放送されました。

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