コンベア880

コンベア880（Convair CV880）は、アメリカの航空機メーカー、コンベア社が開発した中型ジェット旅客機です。1950年代後半に、当時最速の旅客機を目指して開発されました。しかし、その開発と運用には多くの課題があり、商業的には成功したとは言えませんでした。

開発の背景


コンベア社は、レシプロ旅客機で一定の成功を収めていましたが、ジェット時代への移行に伴い、新たな市場に参入する必要がありました。この時、トランス・ワールド航空（TWA）のオーナーであったハワード・ヒューズが、コンベア社に高速ジェット旅客機の開発を強く働きかけたことが、コンベア880開発のきっかけとなりました。当初、ヒューズはロッキード社に同様の開発を依頼していましたが、ロッキードが軍用機の開発で多忙だったため、コンベア社がその役割を担うことになりました。

「世界最速」を目指して


ボーイング707やダグラスDC-8といった競合機に対抗するため、コンベア880は「世界最速」をセールスポイントとして開発されました。試作機を省略する「クック・クレイギー・プラン」方式を採用し、当時としては最速のマッハ0.89を標榜しました。また、超音速軍用機に使用されるエンジンや、機体表面を平滑化する接着工法を導入するなど、技術的にも意欲的な設計がなされました。しかし、実際には空気抵抗が大きく、計画された速度には届きませんでした。また、発表された機内ラウンジも実現しませんでした。

不評と改良


初期型のコンベア880は、高速化のために前縁スラットを省略した設計でしたが、離着陸時の危険性が指摘され、後にスラットが追加されました。また、エンジンは小型軽量ながらも整備が煩雑で、信頼性に欠けるという問題も抱えていました。さらに、騒音や黒煙の問題、燃費の悪さ、操縦性の悪さなど、多くの欠点が指摘され、航空会社からは不評でした。これらの問題を改善するため、改良型の880Mが開発され、初期型も順次改修されました。

生産中止とその後


1960年代に入ると、コンベア880はより大型のボーイング720などの競合機との競争に苦戦しました。改良型のCV990に生産が移行したこともあり、1959年から1962年の間にわずか67機しか生産されませんでした。多くの航空会社は、コンベア880の欠点を嫌い、ダグラスDC-8などに買い替えを進めました。その後、コンベア880は貨物機として転用されることもほとんどなく、1980年代中盤にはすべての航空会社から退役しました。

日本での活躍


日本では、日本航空（JAL）が8機、日本国内航空（JDA）が1機のコンベア880を導入しました。日本航空は、東南アジア路線向けに、ダグラスDC-8よりも小型の機材を求めていたため、コンベア880が選ばれました。1961年には、東京-札幌線で、国内線初のジェット機としてデビューし、「ジェットアロー」の愛称で親しまれました。しかし、コンベア880はトラブルが多く、操縦も難しかったため、現場からは嫌われました。また、事故率も高く、1970年代には全機が退役しました。

現存機


コンベア880は、事故や老朽化により、多くの機体が失われました。現在、アメリカにはエルヴィス・プレスリーの自家用機「リサ・マリー」号が、スイスにはコンベア990が静態保存され、一般公開されています。また、カリフォルニア州のモハーヴェ空港には、コンベア880が数機保管されています。日本では、交通博物館に展示されていたエンジンが、航空科学博物館に移管されています。

コンベア990


コンベア880の改良型として、1961年にコンベア990が開発されました。エンジンをターボファン化し、空力的な改良を施したモデルですが、コンベア880の悪評を覆すことはできず、1963年には早々と生産が終了しました。コンベア880とコンベア990の商業的な失敗は、コンベア社の衰退を招いた要因の一つとされています。

スペック



ユーザー（一部）



事故


コンベア880は、訓練中の事故を複数回起こしており、特に離陸時の事故が目立ちました。これらの事故により、日本国内航空は1機を失い、日本航空も3機を失っています。

コンベア880は、技術的な挑戦と商業的な失敗の両面を持った航空機でした。しかし、その存在は、ジェット旅客機時代の幕開けを告げるものであり、その歴史は、航空史における重要な一部をなしています。

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