ゴダール・ソシアリスム

ゴダール・ソシアリスム：実験と哲学が織りなすゴダールワールド

ジャン＝リュック・ゴダール監督による2010年公開の長篇映画『ゴダール・ソシアリスム』（原題: Film socialisme）は、従来の映画の枠組みを超えた実験的な作品として知られています。2004年の『アワーミュージック』以来の長編映画となる本作は、フランスとスイスの合作で制作され、カンヌ国際映画祭のある視点部門にも出品されました。

物語：神話と現実の交錯

公式サイトによると、本作は3つの楽章で構成されています。物語は、エジプト、パレスチナ、オデッサ、ギリシア、ナポリ、バルセロナといった、歴史的・神話的に重要な場所を舞台に展開します。主人公たちはこれらの地を訪れ、現実と虚構、歴史と神話、真実と虚偽が曖昧に交錯する旅を続けるのです。

キャスト：異色の顔ぶれ

本作には、映画界のみならず、音楽、哲学、政治、芸術など、様々な分野の著名人が出演しています。アメリカを代表する女性歌手パティ・スミス、フランスの哲学者アラン・バディウといった著名人のほか、フランス人女優エリザベート・ヴィタリ、アフリカ系フランス人女優らが出演。さらに、ロベール・マルビエやレニー・ケイなど、多彩なバックグラウンドを持つ人々が顔を揃えています。

中でも、ゴダール作品への初出演となるアガタ・クーチュールは、物語の鍵を握る少女アリッサ役を演じ、重要な役割を果たしています。また、ジャン＝ポール・バタジアの娘であるマリーヌ・バタジアも出演しており、家族的なつながりも感じられます。

スタッフ：ゴダールと多様なクリエイター

監督はジャン＝リュック・ゴダールですが、公式サイトにはファブリス・アラーニョ、ポール・グリヴァス、ルーマ・サンバール、アンヌ＝マリー・ミエヴィル、ジャン＝ポール・バタジアといった複数の名前が「ディレクター」として挙げられています。これは、ゴダールが従来の映画制作体制にとらわれず、多様な才能と協働して本作を制作したことを示唆しています。

音楽協力にはECMレコードが名を連ね、製作会社にはワイルド・バンチ、ヴェガ・フィルム、ペリフェリア、カナル・プリュスなど、複数の企業が関わっています。制作にはスイス連邦文化局やジュネーヴ市なども支援しており、国際的な共同制作の形態をとっています。

公開と反響

当初は2010年1月20日の公開が予定されていましたが、実際には5月12日から23日にかけて開催された第63回カンヌ国際映画祭のある視点部門でワールドプレミア上映が行われました。フランスでの劇場公開は5月19日、インターネットでのビデオオンデマンド配信は5月17、18日に行われました。さらに、本作のダイアローグと画像を掲載した書籍も出版され、多角的なアプローチで作品が発信されました。

予告編：エイゼンシュテインへのオマージュ

4分間の予告編には、新撮映像だけでなく、セルゲイ・エイゼンシュテイン監督の『戦艦ポチョムキン』からの引用や絵画、写真などが含まれています。予告編は「ヴェガ」「フィルム・ソシアリスム」「ものごとの」「黄金の」「ばかものたちの」「物語/歴史たちの」といった言葉とともに、エジプト、パレスチナ、オデッサ、ギリシア、ナポリ、バルセロナといった地名が示されており、作品のテーマや構成を示唆しています。

ゴダール・ソシアリスム：現代社会への問いかけ

『ゴダール・ソシアリスム』は、単なる物語映画ではなく、現代社会への鋭い批評と哲学的な問いかけを内包した作品です。ゴダール独自の映像表現と実験的な手法は、観る者に強い印象を与え、様々な解釈を許容する余地を残しています。歴史、神話、政治、経済、そして人間の存在意義といった多様な要素が複雑に絡み合い、観る者に深い思考を促す、まさにゴダール監督らしい問題作と言えるでしょう。

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