ゴードン・マレー

イアン・ゴードン・マレー：F1伝説と革新的ロードカーデザインの巨匠

イアン・ゴードン・マレー（1946年生まれ）は、南アフリカ・ダーバン出身の自動車デザイナーであり、実業家です。その類まれな才能でF1界に革命を起こし、ロードカーデザインの世界でも比類なき功績を残しました。196cmの長身と持ち前の才能で、モータースポーツ界に名を刻んでいます。

若き日の情熱とイギリスへの挑戦

南アフリカでの青年時代、マレーは製図工として働きながら大学の定時制コースで工学を学びました。レーサーだった父の影響を受け、自らレーシングカーを製作し、クラブレースやヒルクライムレースに参加していました。彼の情熱は並々ならぬものがあり、将来への大きな期待を抱かせていました。1969年、彼は単身イギリスへ渡り、レースエンジニアとしてのキャリアをスタートさせます。ロータスへの就職は叶いませんでしたが、ブラバムでの最初の仕事が、彼の輝かしいキャリアの始まりとなりました。

ブラバム時代：革新と勝利の軌跡

ブラバムへの入社後、マレーは着実にキャリアを積み重ねていきました。バーニー・エクレストンがオーナーに就任し、ラルフ・ベラミーが離脱したことで、彼はチーフデザイナーに昇格します。1973年から1985年にかけて、彼が設計したブラバムのシャシーはグランプリで22勝を挙げ、コンストラクターズランキングで2度の2位を獲得。さらに、ネルソン・ピケを2度のドライバーズチャンピオンに導きました。

彼のデザインは常に独創性に溢れていました。三角形の断面を持つピラミッドモノコック、表面冷却システムを搭載したBT46プロトタイプ、そして伝説的なファンカーBT46Bなど、革新的なアイデアとレギュレーションの盲点を突く設計は、多くの注目を集めました。また、彼は早くからカーボン素材をウイングやブレーキディスクに導入するなど、先進的な技術を取り入れていました。

1981年には、当時の車高規定をクリアするために、走行中に車高を下げられるハイドロニューマチック・サスペンションを搭載したBT49を開発。1983年には、レース中の再給油作戦を想定した小型燃料タンクを搭載したBT52を開発するなど、常にライバルチームを出し抜く戦略的な発想で勝利を目指していました。

1983年のフラットボトム規制後、彼はグラウンド・エフェクトを発生させる従来のデザインに反発し、「ロウ・ライン・コンセプト」を追求しました。BT55はその代表作で、BMW直4ターボエンジンを水平方向に73度傾けて搭載することで、マシンの全高を極限まで低く抑えました。この独特のフォルムは「スケートボード」や「フラットフィッシュ」と呼ばれ、大きな話題となりました。しかし、このデザインはトラブルも多く、十分な成績を残すことができませんでした。

ブラバムでの17年間、マレーはオーナーのエクレストンと良好な関係を築いていました。しかし、彼はロードカーのデザインにも関心があり、マクラーレンへの移籍を決意します。マクラーレンのロン・デニスとの将来への約束が、彼の決断を後押ししました。

マクラーレン時代：黄金時代を築く

1986年末、マレーはマクラーレンに移籍しました。最初の仕事は、前任のジョン・バーナードが残したMP4/3の改良でした。そして、翌シーズンからのホンダエンジン供給が決定すると、彼は1988年型マシンMP4/4の開発に着手します。BT55での経験を活かし、車高を低く抑えたMP4/4は、アイルトン・セナとアラン・プロストという最強ドライバーと、ホンダエンジンの高い戦闘力によって、グランプリ16戦中15戦で勝利を収め、マクラーレンにコンストラクターズチャンピオン、セナにドライバーズチャンピオンをもたらしました。この199ポイントという記録は、長らくグランプリ史上最高得点として残りました。

マレーは1990年のMP4/5Bまでテクニカルディレクターを務め、3年連続コンストラクターズタイトル獲得という偉業を達成し、F1レーシングカーデザインから卒業しました。彼は当初からロン・デニスにF1キャリア20周年後の新たなプロジェクトへの期待を伝えており、その約束に基づいてマクラーレンを離れました。

ロードカーデザイナー：伝説のマクラーレンF1

1991年から2004年まで、マレーはマクラーレン・カーズに在籍し、カーボンモノコックを採用した「マクラーレンF1」や、メルセデス・ベンツとの共同開発車「SLRマクラーレン」の設計を担当しました。彼はマクラーレンF1のデザインについて、「F1マシンよりも多くのことを考えさせられ、非常にやりがいのあるプロジェクトだった」と語っています。レースを想定していなかったマクラーレンF1・GTRは、ル・マン24時間レースで1～5位を独占するという快挙を達成しました。

その後も、ライトカー・カンパニーで「ロケット」を設計したり、キャパロT1プロジェクトに関与したり、自動車雑誌への寄稿なども行い、常に自動車界の発展に貢献しました。

自身のデザインスタジオ設立と現在

2007年、マレーは自身のデザインスタジオ「ゴードン・マレー・デザイン」を設立し、都市部向けの小型コミューターカーなどの設計、デザインを手掛けています。東レの電気自動車開発にも関与するなど、幅広い分野で活躍を続けています。グループ・ロータスやヤマハ発動機との協業を通じて、軽量・高剛性な車体技術「iStream」を開発し、「MOTIV」「SPORTS RIDE CONCEPT」などのコンセプトカーを発表しました。TVRの新型車デザインにも携わり、2019年には自身のロードカーブランド「ゴードン・マレー・オートモーティブ (GMA)」を設立し、フラッグシップモデル「T.50」の生産を発表しました。

イアン・ゴードン・マレーは、F1での成功にとどまらず、ロードカーデザインの世界でも革新的な技術とデザインで、常に自動車業界をリードし続けている、まさに自動車界のレジェンドと言えるでしょう。彼の功績は、今後も自動車界の歴史に刻まれることでしょう。

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