サイオン・tC

サイオン tC：若者向けクーペの軌跡

トヨタ自動車は、かつて北米市場において、若年層をターゲットとしたブランド「サイオン」を展開していました。そのブランドを代表するモデルの一つが、スポーティなクーペ「tC」です。本稿では、この個性的なクーペの歴史を、初代ANT10型と2代目AGT20型の2世代にわたって詳細に解説します。

初代 ANT10型 (2004年 - 2010年)：セリカの後継車として

2004年、デトロイトショーで発表された初代tCは、サイオンブランド初の専用モデルとして、北米市場で販売を開始しました。トヨタの伝統的なスポーツクーペ「セリカ」の後継車という位置づけで、多くの注目を集めました。

生産はトヨタの堤工場で行われ、プラットフォームはトヨタ・カルディナと共通ながら、tC用に強化と改良が加えられていました。エンジンはカムリと同じ2.4Lの2AZ-FE型を搭載し、5速マニュアルトランスミッションの組み合わせが大きな魅力でした。

標準装備には、クルーズコントロール、17インチアルミホイール、ABS、イモビライザーなどが含まれており、価格競争力も高く、2万ドルを切る低価格帯を実現していました。

また、トヨタワークスのTRD（TRD-USA）が専用チューニングパーツを数多くリリースしており、高いチューニングポテンシャルも魅力の一つでした。フォーミュラ・ドリフトへの参戦車両としても使用されるなど、モータースポーツシーンでも活躍しました。ただし、参戦車両はエンジンや駆動方式などが大きく改造されていました。

さらに、毎年限定数の「Release Series（RS）」が発売されていました。各RSは専用のボディカラーが設定され、コレクターアイテムとしても人気がありました。

2代目 AGT20型 (2011年 - 2016年)：スクエアなデザインへの進化

2010年のニューヨークモーターショーで発表された2代目tCは、初代とは大きく異なるデザインを採用しました。「ヘルメット」をヒントにしたデザインと、コンセプトカー「FUSE」の影響が見て取れ、流線型だった先代からスクエアな形状へと一変しました。

パワートレーンとプラットフォームは新規開発となり、2.5L直列4気筒の2AR-FE型エンジンを搭載。デュアルVVT-i、新型インテークマニホールド、スポーツエグゾーストを装備し、最高出力180PS、最大トルク23.9kgf・mを発揮しました。トランスミッションは6速ATと6速MTが用意されました。アルミホイールは18インチへと大型化されました。

インテリアは、フラットボトムステアリングホイールやスポーツシートを採用。後席には6：4分割可倒式シートが装備されました。安全装備も充実し、8個のエアバッグ、VSC、トラクションコントロールなどを標準装備しました。

中国と中東市場では「トヨタ・ゼラス」として販売されました。生産は2014年8月に堤工場から高岡工場に移管されましたが、2016年8月にサイオンブランドが廃止されたことに伴い、北米での販売は終了しました。中国市場向けは「ゼラス」として継続販売されましたが、2017年12月に販売終了となりました。

初代tCは、若者向けのスポーティなクーペとして、北米市場で一定の成功を収めました。2代目tCも、デザインや性能を進化させ、市場に存在感を示しました。しかし、サイオンブランドの廃止により、その歴史は幕を閉じました。tCは、トヨタの若者向け戦略の一端を示すモデルとして、自動車史にその名を刻んでいます。

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